ヨシタケシンスケがラーメン屋で気づいた真理

絵本作家・ヨシタケシンスケ氏のイラストをエッセイで解説したものを、一部ご紹介します(イラスト:ヨシタケシンスケ)

普段からスケッチ帳を持ち歩き、思ったことを書き留めているという、絵本作家のヨシタケシンスケ氏。実際に、このスケッチ帳から絵本のアイデアが生まれることも多いといいます。このスケッチ帳から選りすぐりのイラストをエッセイで解説した『欲が出ました』から今回は一部抜粋して掲載します。

こんな写真集が欲しい

欲が出たときの顔

ひょっとしたらこのまま作家になれるんじゃないか?これはプチ欲が出たときの顔。お菓子をもう1個取っていいんじゃないかとか、俺はもうちょっと寝てていいんじゃないかとか、人間って欲が出る瞬間があるわけです。欲が出るから成功もするし、欲が出るから失敗もするわけなんですけど。こういう自分の中で欲が出た瞬間って、どんな顔をしてるのかな?と思ったんですね。

黙ってたらもう1個取ってもわかんないんじゃない?

人間ってそういう、あれ?いけるんじゃない?みたいなとき、何とも言えない顔をする。そんな欲が出た瞬間の顔ばっかり集めた写真集があったら、ぜひ買いたいと思いました。あー、この人、欲出てるわ、いけると思っちゃったんだろうな、ってのをたくさん見てみたい。ただ、どうやってその瞬間を写真に撮るかが、一番問題なんですけど。

という感じで、脈絡ないんですが、いつも、思ったことをそのまま描いてます。

表面にうかんでるイロイロ

ラーメン屋さんに行くと、スープがよく大きな寸胴で作りおきしてある。表面にネギとか豚骨とかが浮いていて、そのスープをすくうときには、それをおたまですーっとどかしてからすくうんですよね。それが楽しくていつもよく見るんですけど。

欲しいものは下のほうにある、澄んだいろんなものが抽出されたもの。なんだけれども、表面にはその材料がいっぱい浮かんでる。で、いきなりがぽっとよそってしまうとそういう余計なものが入ってきてしまうので、その前に、表面に浮かんでるイロイロを丁寧にどかしてからすくう、って作業が必要になる。

作品を作るときも、本来言いたいこと、伝えたいこと、面白いなって思ってることを表現するためには、何か余計なものをどかす必要がある。

で、それを丁寧にどかして、中のいちばん味わってもらいたい部分だけをすくう作業が、物作りをするうえで実はいちばん難しくて大事なことなんじゃないかな、っていうのをラーメン屋さんで思ったって話なんです。ついつい何か表側の余計な部分も、すくっちゃったりするんですよね。でも、そういうのをどかさないと、本来のものが伝わらなかったり、おいしくなかったりするんじゃないか。

その一連の作業をきれいにできたら気持ちいい。作品作りにおいても、そうだなって考えました。

第三者に促してもらいたい

感謝を促す係

子どもとかに、人のありがたみを教える仕事って、あったほうがいいよなと思ってて。人の半分ぐらいの身長で、感謝を促す係。そう考えるとホント「ありがとう」ですよネ、って、嫌みじゃなくさらっと言いに来て、誰かへの感謝の念を、湧き起こさせる……。

要は子どもに、「あんたのお母さん、あんたのために一生懸命やってんだよ。だからお母さんに、あなたはもっと感謝すべき状況なんですよ」、っていうことを、あんまり押しつけがましくなく話す人がいてほしい。子どもは、お母さんから言われたら絶対感謝しないけれども、こういう第三者が来て、「ありがたいと思いません?」と言ってくれると、「あ、確かに」って、意外と納得できたりするかもしれないので。

会社に来たなら、「あの後輩、何だかんだ言いながら、こういうこともやってくれるし、そう考えるとホントありがとうが必要ねー」って先輩を諭してくれる。で、この感謝係がたったったって帰ったあと、先輩が「いつもありがとね」みたいな、めったにない感謝の言葉を、後輩にかける。