そうしたことから、仮にウイルス感染が収束しても在宅ワークはある程度、定着するものと見られる。そうなると、在宅ワーク向けの空間など、ステイホームに対応する住まいへのニーズが高まることは確実だ。
それを裏付けるような事例も見られる。大和ハウス工業は、新築戸建て住宅向けの「快適ワークプレイス」「つながりワークピット」と呼ばれる、同社初のオリジナル在宅ワーク空間の提案を6月1日に商品化している。
その採用住宅の契約が6月末までに56棟にのぼったという。数そのものは決して多くはないが、「発売月に契約が反映された商品はこれが初めて」(大友浩嗣取締役常務執行役員)と驚きのコメントをしていた。
これは新型コロナによる暮らしの影響について、社員を対象にしたアンケート調査を元に開発されたものだという。ちなみに一般消費者アンケートも実施しており、その中でステイホームは新たな家事負担を発生させていた、と指摘している。
それは、「手を洗い・うがいを家族に呼びかける」「マスクや消毒液の残量の確認・購入」「ティッシュやトイレットパーパーの 残量確認・購入」などだ。「新三大・名もなき家事」(2017年の調査で「名もなき家事」を挙げていた)と名付け、今後、住まい方提案力の向上につなげる模様だ。
上記で紹介してきたステイホームや在宅ワークに関する実態調査、関連する商品や提案事例は他にもあるが、通常、今回のようにスピーディに行われることは大変まれで、新型コロナウイルスによる一連の出来事への対応が、住宅事業者にとって死活問題として認識されていることを表している。
特に、在宅ワークスペースについては、共働き世帯の増加に伴い、主婦層などが帳簿を整理する際などの活用を想定した「家事コーナー」のような事例が下地になっている。それゆえ比較的早くハウスメーカーなどにより、商品化などが行われたと考えられる。
また、子育て・共働き世帯は今や住宅取得者の主役であり、そのため商品化や提案力強化を急がざるをえなかったという背景があり、上記の実態調査を含めた動きとなったとも見て取れる。
ところで、冒頭の「住まいのあり方に非常に大きな変化を促す可能性がある」ということだが、自宅の中に本格的な仕事に対応できるスペースを設けるというのは、これまでに無かった動きだ。
というのも、現在では「書斎」がほとんど姿を消すなど、住宅では住と職の分離が進められてきたからだ。例外はあるが、男女を問わず、仕事を家庭に持ち込まず、家はくつろぎの場所となっていた。
ちなみに、前述した「家事コーナー」はあくまで家事の延長線上の作業を行うことが想定された場所であり、PCや書類を広げるなどの本格的な仕事、さらにはWeb会議に適した場所ではない。
旭化成ホームズくらしノベーション研究所の調査結果について、筒井淳也・立命館大学産業社会学部教授は、「在宅ワークによって仕事と家事の融合が進んだ」とコメントしている。
また、「これまで失敗続きだった」(同教授)日本のライフワークバランスの転換点になる可能性を示している。要は、住まいのあり方が住職の分離から融合へと急激にシフトしつつあるということだ。