「日本製品」が海外で売れなくなった根本原因

iPhoneの次に「革新的なアイデア」

そうして2013年に発売されたのが、ドローン「ファントム」だ。リーズナブルな価格、組み立て済みで届き受け取ったらすぐに空撮できる、という3つの強みを誇る白いボディのドローンである。ファントムは、ドローンとして一般利用できる最低限の性能を備え、当時として破格の679ドル(約67000円)でリリースされた。

これは、それまで専門的な知識を持った業者やマニア向けだったドローンを、一般向けに大きく広げるヒット商品となった。そのインパクトは、アメリカ『Forbes』誌で「AppleのiPhoneを除けば、ファントムはもっとも人を感動させるプロダクトかもしれない」と評されたほどだ。

DJIは2013年のうちに、空中でのブレを防止し、空撮の精度を高めた「ファントム2」を即座にリリース。2015年には、飛行の安定性を向上させた「ファントム3」。2016年には、障害物の回避、対象の追尾などの機能を備えた「ファントム4」を次々にリリースしていった。

初代機のリリースからわずか3年の間に、「空撮を体験できるロボット」という初期段階からバージョンアップを繰り返し、「ドローン自体が情報処理を行うスマート・ロボット」へ急速に進化させた。さらに2016年には、折り畳み式で携帯可能な小型ドローン「マビック・プロ」をリリースし、ドローンをより広く、より手軽に、より便利に利用できるよう、市場を押し広げていった。

DJIは、「完璧なドローン」という自社プロダクトの完成形・理想形を遥か先に掲げながら、まずは駆け出しのベンチャーとして生きていくために、できることから徐々に完璧を目指した。フライトコントローラーにはじまり、ドローンの製造・改良・進化を短サイクルで回し続けている。

新規アイデアが出れば、すぐにプロトタイプをつくり、可能性を信じてMVPに仕上げ、量産し、高速でリリースする。その積み重ねによって、世界トップシェアを獲得するまでに至った。DJIの思い描く加点型の長期目標は、更新され続け、さらに先の未来へ置かれている。

世界で一度敗れたメイド・イン・ジャパン

このように、「海外のものづくりは雑」「特に中国はいい加減」という認識は、短サイクルで回す加点型の短期目標の一部分を切り取った近視眼的な解釈にすぎない。大局で見れば、減点型では目指すことができない新しく大きな価値を、加点型は実現することができる。

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「中国は粗悪で速いだけだが、日本は緻密で慎重な完璧主義なんだ」と考え、それをよしとする認識は、もう改めなければならない。緻密で慎重な、減点型の完璧主義で、メイド・イン・ジャパンは世界で敗れているのだから。

もちろん、製品ジャンルによってMVPとして求められる「最低限の価値」は異なるし、日本の得意とする減点型が強みとして有効な分野も存在している。しかし、家電も住宅もスマート化が急劇に進んでいる分野だ。

自動車は、いずれ電気自動車が主流となり、同時にスマート化を進め、自動運転へ辿り着くだろう。そうしたなかで、日本のものづくりが世界で再び勝ち上がっていくためには、「加点型の完璧主義」を学び、取り入れ、組織とビジネスに大きな変革を起こす必要があるだろう。