実際、1995年にリリースされたAmazonの初期ホームページも、2007年の初期iPhoneも、いずれも粗削りだった。だが、MVPを市場に出してニーズを検証し、急速に水準を向上させ、ともに破壊的なイノベーションになったことは周知のとおりだ。
「加点型の完璧主義」では、尖ったアイデアを加点で評価し、その枝葉を活かしてプロダクトの価値を最大限に高めることを目指す。まず、尖った要素を完璧に仕上げる理想形の「加点型の長期目標」が設定される。この長期目標は、プロセスに応じて、修正・更新ができるものだ。
それとは別に、短サイクルで回す短期目標も設けられ、これに基づき、いち早くMVPをリリースしていく。そうして、市場の反応に対して迅速・柔軟に軌道修正を行いつつ、バージョンアップを重ねる。あるいは、初期の反応が悪ければMVPの段階で撤退することもできる。この段階ならばダメージは比較的小さく、手を引きやすい。「最も効果的な市場調査とは、実際にリリースしてみること」というわけだ。
そして短サイクルに合わせ、開発とプロモーション、流通、販売、リサーチなどが連動していく。このサイクルを重ねた先に、理想として思い描く「完璧なプロダクト」が実現される。
つまり、日本も世界のトレンドも「完璧」を目指してはいるが、完璧さの種類が異なるのだ。下の図のように、日本は、1つのプロダクトに時間をかけ、器の中の「盆栽」のように、減点型のミニマムな完璧をつくって広めようとする。
それに対して世界のトレンドは、完璧を目指すまでに、いくつものプロダクトをつくり、高速に発売・改良・バージョンアップを繰り返し、大地に根を張る「大木」のように加点型のマキシマムな完璧をつくって広めようとする。
この加点型の完璧主義を実践することで飛躍を遂げた中国ベンチャーがいる。それが、ドローン市場で世界トップシェアを勝ち取っているDJI(大疆創新科技)だ。
2006年に学生ベンチャーとして生まれたDJIは、2019年には世界のドローン市場のシェア70%以上を握るリーディングカンパニーへ飛躍を遂げた。同社の製造するドローンは、世界100カ国以上で販売され、総売り上げのうち、北米市場、欧州市場、中国国内を含むアジア市場からそれぞれ3割ずつ、残り1割を南米・アフリカ市場から得ている、真のグローバル企業だ。
無人で遠隔操作・自動制御ができる航空ロボットのドローンは、撮影目的のほか、点検、農薬散布、セキュリティや救助など、用途の種類と需要を急拡大させている。民間だけでも市場規模は推定5500億円にのぼり、今後10年で3倍以上の拡大が見込まれる成長市場だ。
その成長市場のグローバル・トップに立つDJIの創業者、汪滔(フランク・ワン)氏が掲げる社訓は、「激極尽志、求真品誠(極限まで志のために尽くし、真実を追求し、製品に嘘をつかない)」という完璧主義だ。
フランク・ワン氏が大学院の同級生2名と創業したDJIが初めに製造・販売したのは、ドローンの中核となる飛行制御システムのフライトコントローラーだった。共同創業者と離別し、知人・恩師を招いてチームを再編し、資金調達を経て、2009年に初の自社製品となるフライトコントローラーシステム「XP3.1」をリリースした。その後は「ハードテックのシリコンバレー」と呼ばれる深圳に本拠地がある強みを活かし、ドローン全体の製造へ舵を切っていった。