憧れの勤務地は「丸の内」から「リゾート」へ

これが、企業にとってテレワークも業務の一環であることが普通に認知されるようになってくれば、休暇中に働くワーケーションではなく、日常的にリゾートにてテレワークで働くスタイル「リゾートテレワーク」が今後の新しい働き方の1つになると考えています。

リゾートテレワークが生産性を向上させる

同じテレワークをするのであれば都会の自宅の一室ではなく、より開放感が強く、気持ちのよい場所を選んで仕事を行いたいと思うのは当然の欲求です。勤務開始前や休憩時間、終業後に手軽に本格的なレクリエーションを楽しみ、心からリフレッシュすることで生産性も向上するでしょう。一時期、早朝から観光、海水浴、登山などのアクティビティをこなした後、定刻までに出社をする「エクストリーム出社」という言葉が出ていたことがありましたが、これを無理なく味わえるのが、「リゾートテレワーク」の環境です。

例えばスキーリゾートであれば、パウダースノーが降った朝一番だけはゲレンデに向かい、一通り楽しんだ後しっかりと業務を行ったり、夏に雲海を眺めながら涼しい山頂にあるコワーキングスペースで勤務をしたり、と想像するだけでも充実した毎日を思い描くことができます。

もちろん、すべての観光地が「リゾートテレワーク」に向くわけではありません。長期滞在が前提となるため、長期滞在に適した宿泊施設や滞在プランの存在はもちろん不可欠。多様で魅力的なコワーキングスペースの存在や、家族全体での滞在を前提としたサービスの提供、企業側とのタイアップの推進など、「リゾートテレワーク」の行き先に選ばれるための地域全体での努力も必要になります。

身近な事例を挙げて説明すると、白馬岩岳エリアでは、近年のインバウンド・スキーヤーの増加に伴い、リビングスペースやミニキッチン、洗濯機、バス・トイレが部屋に完備され、シェアキッチンなどの共同スペースも充実した長期滞在に向いた施設がすでに多く存在しています。比較的利用者が減少するグリーンシーズンであれば、スキーシーズンより割安な長期滞在料金プランがあります。

ゴンドラリフトで上がった山頂エリアの森の中やレストハウス内には、コワーキングスペースがあるため、そこを仕事場とする「ゴンドラリフト通勤」も可能です。また小さいお子さん連れの場合には、大自然の中でのアートやリトミックなどプログラムが充実したプレスクールがあり、現地在住のオーストラリア人による英語レッスンを受けることもできます。

岩岳山頂は、広大な芝生広場や森の中にワークスペースとして利用可能な設備を整えています(写真は筆者提供)

エリア内の移動は、レンタカーの長期プランのほか、E-Bike(スポーツ電動自転車)の長期レンタルプランもあります。マウンテンバイクやトレッキング、アドベンチャー施設など、体を動かせるアクティビティも充実していることから、効果的にデスクワークの気分転換やストレス発散をしながら、便利にリゾートテレワーク滞在をすることができるようになっています。

都市オフィス再考、生産性と生活の質向上へ

白馬岩岳エリアでは、「リゾートテレワーカー」を受け入れるこれだけの条件が整っているとはいえ、実際の利用者はまだベンチャー企業や外資系企業などごく一部です。それは、多くの首都圏の大企業が、坪単価の高い都市中心部にオフィスを持つことがブランドイメージにつながると考えてきたからでしょう。

今回の新型コロナウイルスの蔓延を機に、都市のオフィスの優位性という概念が変わり、多くの企業で働く場所を再考し始める動きがあります。オフィスの家賃や住宅手当、通勤手当といったこれまで企業側が負担することが当たり前だったコストを、より生産性と従業員のQOL向上に直結するものに活用する。このような発想の転換を企業側にうながすため、1人でも多くのオフィスワーカーに大自然の中で長期滞在し、実体験してもらいながら費用対効果の高さを実感してもらうことが、リゾートテレワークを「当たり前」にするために今、必要なことだと考えています。