荷物激増の配達員たちが何とかパンクしない訳

一方で、今回のコロナ禍においては感染拡大防止策として接触を避けた置き配(各社一定の条件あり)や受領印の省略、ノーサインによる引き渡しが増えた。それにより、1個当たりの配達時間が大幅に縮まり、1時間当たりの配達個数も増えていったのだ。不在も少なく不在票を書く手間も省かれ、生産性も上がる結果となった。

国土交通省総合政策局物流政策課の宅配便再配達調査によると、1年前の2019年4月の不在率は16.0%であり都市部では18.0%であった。この数字は前年2018年度の15.0%を上回っており、減少どころか増加の一途をたどってきた。宅配業界は再配達問題や働き方改革により、宅配ボックスの増加、受け取りサービスの拡大などの改革を進めてきたが、それでも飛躍的な解決には至らなかったのである。

国土交通省の「総合物流施策推進プログラム」において宅配便の再配達率の削減目標を2020年度には13%に目標を定めた。そして、皮肉にも今回の未曾有の事態をきっかけとして達成されようとしている。不在対策はともかく、置き配や受領印の省略、ノーサインなど、コロナ禍に対応して生まれた宅配を効率的にする仕組みは、仮に事態が収まったとしても残していくことが望ましいだろう。

あるドライバーは日頃、荷物を宅配ボックスにしか預けていなかった住人と初めて顔を合わせて驚いたという。

「名前だけで判断して、てっきり女性だと思っていたら男性が出てきたからビックリしました。こんなときに不謹慎だけど、こういうサプライズは楽しみの1つです」

逆に受け取る側からしても、どんなドライバーが配っていたのかを認識でき、安心したかどうかは別として、今後の受け取り方を考えられる。

宅配便withコロナ

医療従事者と同様、自粛生活を支える宅配現場の奮闘、そして疲弊する様子は、連日のようにメディアで報じられた。世間からは、称賛と励ましの声が多く聞こえたが、中には心ない非難や差別めいた声も受けたという。

とあるベテランドライバーはこんなエピソードを語ってくれた。

「荷物を渡そうとしたら、その荷物は受け取れないと拒否されました。不特定多数の人と物に接する宅配ドライバーは、物だけではなくウイルスも運んでいるからと……」

このようにウイルスを媒介するもののような言われ方をされたら、感染の危険を顧みない宅配ドライバーの活躍も浮かばれない。withコロナとは、言われもないこのようなクレームにも耐え忍ばなければならないのかと、悲しくなる。

しかし、そればかりではない。むしろ東日本大震災の『絆』の一文字を思い出すエピソードもあった。

「幼稚園くらいの子が窓から顔を出して、手を振って『ありがとう、頑張ってください』って言われたとき、正直言って涙が出た」

「配達途中に知らないおばさんから、手を握られ『頑張って』って言われてうれしかった反面、おばさん、コロナ気にしないのかなぁと心配になった」

また、配達時に指示されていたガスのメーターボックスに荷物を入れようとしたらマスクと一緒に手紙が置いてあり、このような文面が書いてあったという。

「よければ使ってください。いつもありがとうございます。アルコール消毒した手で入れました」

そのドライバーはうれしそうな様子で、それを映した写真を見せてくれた。

何でもない、ただ普通に荷物を配達している姿に感謝をしてもらい、普段から聞き慣れた言葉や行動が、こんなにもうれしいと思ったことはないと、皆口々に言った。

緊急事態宣言が解かれて世間は徐々にではあるが、「通常」を取り戻そうとしている。そしてその「通常」とは宅配業界では、不在や再配達などの非効率な日常をあらわしている。