この考え方を援用してみましょう。するとベゾスはおそらく「地球上で最も人間中心の国になる」ことをマクロ宇宙とし、ミッション・ビジョンとして定義してくるでしょう。そしてミクロ宇宙においては「1人ひとりを宇宙の中心に置く」ことがイコール、人間中心主義だと定義する。
こうした壮大な考えを社会に実装するのは大変なことでしょう。しかしテクノロジーの進化に伴って商品中心主義でしかありえなかったものがカスタマーセントリックになってきている中、Society5.0においても「1人ひとりを宇宙の中心に置く」カスタマーセントリックを実行に移していくことが求められると思います。
ベゾスは、毎年、前年度決算の発表と株主総会の招集に合わせて、株主に向けた「株主レター」を公開しています。今年の株主総会は5月27日にオンラインでの開催が予定されていますが、4月16日に「2019年 株主レター」が公開されました。
今年の株主レターでは、COVID-19に直面して、アマゾンが実行しているさまざまな対策が株主に対して説明されています。
例えば、小売や物流の責任が極めて重要になってきている状況で、商品供給体制を強化したこと、不当な値上げと考えられるコロナ関連商品50万品目以上を削除したこと、公正価格取引に違反する6000以上のアカウントを停止したことなどです。
また、新型コロナウイルス検査体制を構築するためにリサーチ・サイエンティストやプログラムマネジャー、エンジニアなど人員の配置換えを行ったこと、従業員の待遇を向上させたことなども述べられています。
アマゾンのクラウドサービス「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」や音声AIアシスタント「アマゾン・アレクサ」といった、アマゾンならではのデジタルテクノロジーによるCOVID-19対策についても紹介されています。
AWSでは、病院・製薬会社・研究機関による患者対応や治療法の開発、リモートワークやリモート授業、政府のパンデミック封じ込め策への支援、さらには2000万ドルを投資して、顧客企業がCOVID-19診断関連のソリューションやサービスを市場に投入することを支援する「AWS診断開発イニシアティブ」の立ち上げなどが挙げられています。
アマゾン・アレクサでは、アメリカ疾病対策センター(CDC)のガイダンスにしたがって、アメリカのユーザーが自宅でCOVID-19のリスクレベルを確認できる音声AIサービスが構築されています。日本でも、厚生労働省の指導に基づく同様のサービスが提供されるとしています。また、アレクサを通して、アメリカ赤十字など慈善団体のCOVID-19関連ファンドに直接寄付ができるようにもなっています。
ほかにも、2500万ドルの「アマゾン救済基金」を設立し、個人事業主や宅配業者への支援、採用枠の拡大、失職者の一時雇用といった取り組みを行っています。
この「2019年 株主レター」からは、ベゾス自身、新型コロナウイルスの感染拡大に対して、アマゾン全社をあげて貢献しようとする強い姿勢を見ることができます。
株主レターの結びでは、絵本作家セオドア・スース・ガイゼルの言葉が引用されています。
「何か悪いことが起こったとき、人には3つの選択肢がある。振り回されてしまうか、破壊されてしまうか、あるいはそれを糧に自分をより強く成長させるかである」。ベゾスはこれら3つのうちどれが選ばれるか「非常に楽観的」と述べ、「それ(COVID-19)を糧に自分をより強く成長させる」が選択されることを信じていると示唆しています。
ベゾスは、「このような状況にあっても、まだDAY1でしかない」と、「2019年 株主レター」を締めくくっています。「DAY1」とは、「(創業して)まだ1日目」という意味です。