世界のどの宗教にも共通する3つの大事な役割

伝統的宗教は、人間の生産性の低かった古代・中世に生まれ、その社会に適応したものですから、基本的に自制や犠牲の徳を説き、物質的な追求よりも心の平安を目指すことを提唱しています。そうした教えそのものは、今後も有効だと思われます。

とくに、地球の大改造を続けてきた近代社会が地球温暖化という大変な難題を抱え込む結果になった21世紀の今日、「欲望が本質的な解決をもたらさない」という宗教の本質的洞察は意味をもってくるはずです。また、東洋宗教の瞑想技術などは、厳しい現実の冷静な観察には有効でしょう。

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もちろん、宗教が今後とも有効であろうというのは、あくまでも部分的な話です。古代・中世の人々のような、宗教こそが―病気治しや雨乞いから日々の生活指針、社会秩序や王権などの正当化、自然や社会に関する学問的説明までの全体に及ぶ―包括的な真理であるという思考法は、この数百年の間に実質的にほとんど力を失いました。

過去の幻想にとらわれている過激な復古主義者(イスラム教やキリスト教などの宗教原理主義者)といえども、その幻想を復興するために、近代兵器を用い、ネットなど現代的情報テクノロジーで無知な若者の勧誘に狂奔しています。それによってさらに伝統宗教の供給してきた分別、知恵、精神的鍛練は損なわれつつあります。

復古的な宗教はもはや絵に描いたモチでしかありえないでしょう。