ちなみにLINEは今回の調査を前に、同社が運営する調査プラットフォーム「LINEリサーチ」を通じ、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県に居住(登録情報ベース)のモニターを対象とする新型コロナ関連のアンケート調査も行っている。だが、この調査データに関しても今回の全国調査で得たデータとの掛け合わせ分析は行わない。
つまり今回LINEが担っているのは、厚労省から国民へ広く調査の存在を知らせて回答をお願いする役割と、集まったデータを統計化する役割。これらに尽きるということのようだ。
一方で、新型コロナの感染拡大防止策を講じるうえで、民間企業が普段の事業活動を通じて取得しているユーザーデータを活用しようとする行政側の動きもある。内閣官房、総務省、厚生労働省、経済産業省は31日、プラットフォーム事業者(IT・ネット大手)や移動通信事業者(携帯電話事業者)に対し、新型コロナウイルスの感染拡大防止に資する統計データの提供について連名で要請を行っている。
総務省の担当者は、今回提供を要請しているのは「あくまで個人が特定されない統計データ」と前置きしつつ、「データを活用し事業を行っている民間企業には有用なデータがたまっており、かつ、活用に関する知見もある。コロナ対策に活用できるものがあるのではないかという考え」と説明する。
具体的には、NTTドコモの「モバイル空間統計」のような、匿名化された“人の流れ”のデータなどを想定しているという。「こうしたデータを活用できれば、例えば先日の3連休に特定の場所で人の出入りがどう増えたかなどを見ることができる。ある地域、地点において人の動きを見るのは、外出自粛要請の実効性を検証するのに有効だということがすでにわかっている」(総務省の担当者)。
さらにクラスター対策に関しては、プラットフォーム企業が保有する検索履歴や 位置情報を役立てられそうだ。「コロナ」「感染症受付」といったワードの組み合わせなど、「コロナに関する検索履歴が特定地域で増えた、減ったという傾向を分析できれば、過去のクラスター感染との関係性が見えてくる可能性はある」(同)。
この要請に企業側はどう対応するのか。31日の取材時点で、「決まっていることはまだない」(NTTドコモ)、「要請内容を確認のうえ、対応を検討する」(ソフトバンク)といった回答が多くを占めた。一方で、「統計的な集計データを活用した新型コロナウイルス対策支援を検討しているが、どんな方法においても厳格なプライバシープロトコルにのっとり、あらゆる個人情報を共有することはない」(グーグル)という回答もあった。
TMI総合法律事務所・大井哲也弁護士は、企業が国の要請に応じてデータ提供を行うことについて、「データが統計情報である限り、個人情報保護法などに抵触することはない。 ただ、丁寧な顧客対応という意味では、(統計情報であっても)データの第三者提供に関する同意を取るのが望ましい」と話す。
さらに、大井弁護士は「仮に個人情報を扱うことになる場合、同意取得は困難である可能性がある。 提供する企業においては、法律解釈とレピュテーション(企業の信用性や評価)の問題がのしかかる」とも指摘する。
国も、企業も、個人も、コロナ危機の収束を願う気持ちは同じだろう。だが、「危機下だから」という理由で平時に徹底されてきたはずのプライバシー保護方針が揺らぐのは、消費者にとって決して望ましいことではない。国や企業には慎重な姿勢が求められる。