3月31日、突然送られてきた「LINE」のメッセージに戸惑いを覚えた人は少なくないだろう。「第1回『新型コロナ対策のための全国調査』」と題されたそのアンケート調査のメッセージは、全国すべてのLINEユーザーに送信された。
厚生労働省は3月27日、「新型コロナウイルス感染症のクラスター対策に資する情報提供に関する協定締結の呼びかけ」を民間企業向けに行った。新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化する中、各地域において感染経路の不明な患者やクラスター(患者間の関連が認められた集団)の発生を封じ込めるのが目的。民間企業が事業活動を通じて得ているユーザー情報を活用しながら感染拡大防止策を講じていく考えだ。
これにいち早く応じたのが、メッセンジャーアプリで国内首位のLINEだ。厚労省とLINEは30日、上記協定の締結を発表。LINEは同日、主にメディア向けに冒頭の全国調査を全ユーザーに配信する旨を告知し、31日の実施に至った。
LINEの国内アクティブユーザー数は8300万、そのうち毎日利用する人の割合が86%に上る(2019年末時点)。連絡手段として、メールや電話、ほかのSNSなどと比べてもメッセージを確認してもらえる確率が高い。加えて世代、居住地などにかかわらず幅広いユーザーに利用されているため、今回のように国全体の状況を把握したい目的にはうってつけのツールだ。
新型コロナウイルスの猛威が日本でも顕在化し始めた2月初旬、厚労省は関連情報の発信を行うためのLINE公式アカウント「新型コロナウイルス感染症情報 厚生労働省」を開設している。同アカウントの「友だち」登録者数は足元で130万に達しており、こういった伝達力や従前の協力体制も、今回厚労省がLINEに頼った一因だったと考えられる。
厚労省側の事情はさておき、LINEユーザーとしては、今回の全国調査で入力した情報がどう使われるのかが最も気になるところだろう。同調査ではまず、現在の体調についての選択式の質問があった後、普段行っている感染予防策、2週間以内の海外渡航歴、さらに年齢、仕事内容、居住地(郵便番号)について問われる。プライバシーに関わる項目もあり、おいそれと入力することをためらう人は一定数いるだろう。
LINEはこの全国調査について、「事態収束につなげられるよう、感染症のより正確な実態やクラスターの発生状況の把握につながるデータで行政の取り組みを支援することが目的」としており、「この用途以外(LINEの広告事業など)で調査結果を利用することはない」としている。
調査で取得したデータはまずLINE側で集計を行い、統計化したものを厚労省に提供、厚労省側で感染防止施策に役立てられるよう分析を進めるという。LINEはユーザーに対し、取得データを統計処理するため個人が特定されることはない点、目的の調査・分析後にはデータが速やかに破棄される点などを強調する。
LINEは通常の自社サービスを通じても、ユーザーの氏名や生年月日、住所などの入力情報、公式アカウントのフォロー状況やニュースの閲覧履歴から推測される興味・関心情報など、多数のデータを保有する。これらを総合的に分析することでアプリ内に配信する広告のパーソナライズ(個人最適化)を行っているわけだが、今回厚労省に提供する情報においては、「(LINE上の)既存データとの掛け合わせ分析はいっさい行わない」(LINE広報)という。