ネットショッピングがこれまで右肩上がりで発展してきた理由は、主にその「便利さ」にあった。検索をすれば欲しいものがあり、購入したものを家まで届けてくれる。一定額以上を買えば配送無料というのも当然のようになっている。
しかし、最近の消費者は、便利であることに慣れてしまっている。もちろん、便利なのは絶対条件ではあるものの、それはもはや空気のように当たり前の存在で、他社と差別化できるポイントにはなっていない。「便利さ」は、もはや価値ではなくなっているのだ。
では、今の消費者が便利さにも増して求めているものは何か?
答えは「時間」である。拙著『2025年、人は「買い物」をしなくなる』でも詳しく述べているが、少しでもストレスのかかる時間を減らして、快適な時間、楽しい時間をもっと増やしたい。SNSなどの投稿を見ても、今はそれを生活の優先順位としている人が非常に増えている。
30代以上の世代なら、何かを探すとき、調べるときに、まずGoogleで検索する(ググる)のは、多くの人の「基本動作」になっているだろう。しかし、今の若い世代は「ググらない」といわれている。では、彼らはいったいどうしているのか?
例えば、商品を検索するならAmazonや楽天で、ファッションならZOZOで、コスメならInstagramで……という具合に、Googleを使わずに情報を探すのだ。これも検索することで発生する「余計な時間」を圧縮したいからだと言える。検索すれば膨大な情報を集められるが、その取捨には時間と労力がかかってしまう。
これは、「便利さ」が売りであったECサイトの品揃えの豊富さに飽きているどころか、「多すぎる情報から選ぶこと」に疲れてしまっている人が増えているということを表している。つまり、ネット検索に時間をかけるのではなく、あらかじめ自分にマッチした情報だけが絞られて出てくるアプリやSNSから必要な情報だけを得る時代にシフトしているのだ。
そして、今後はこのような世代が消費の中心になってくる。そうした変化に気づいていない企業は、そのうち淘汰されてしまうだろう。
では、便利さに飽きてきた消費者に「時間」という新たな価値を提供して、顧客を獲得するために、企業はどんな戦略を取っているのか、ここでは最近の具体的な例とともに説明していきたい。
消費者のニーズが、「時間」へと移り変わっているのは、ネットショッピングだけの話ではない。これから世の中のありとあらゆる商品は、「消費者の時間をつくること」が最優先となるだろう。
「安全」や「おいしさ」が最も大事であるはずの食品メーカーも例外ではない。今の時代、たいていどこのメーカーの商品もおいしいし、厳しい安全基準の中で製造しているため、これらの点はもはや差別化にはならないのだ。
そこで近年、食品メーカーが新たにテーマとしているのが、消費者の時間をつくるという「時間ソリューション」である。
例えば今、スーパーや鮮魚店で生の魚を1匹丸ごと買う人は減っている。現代人は仕事や育児で忙しく、魚をさばく時間、調理する時間がないからだ。野菜など他の食材もそうだが、「1個丸ごと」の代わりに売れているのは、カット済みの商品だ。家でグリルやフライパンで簡単に調理するだけで、食卓に並べることができる。
コンビニエンスストアの店内で、このところ冷凍食品が増えていることに気づいている人もいるだろう。実は近年、おいしさや鮮度を保つ急速冷凍技術が向上していることもあり、おいしい冷凍食品が昔よりも増えている。そこに、料理の時間を減らしたい消費者のニーズが高まったことも相まって、コンビニ各社は冷凍食品のラインナップを充実させているのだ。