浮き彫りになった「リモートワーク」の功罪

コロナウイルスの感染拡大により、インフラ整備にも影響が出始めている(撮影:今井康一)
新型コロナウイルスは、日本の医療体制の問題も浮き彫りにした。コロナウイルスの拡大によって、高血圧や糖尿病など、既存の持病を抱えている患者にも影響が及びつつある。
また、社員らに感染者が広がり、大手商社などではリモートワークや在宅勤務の動きが広がっているが、仕事の生産性という面では功罪があるようだ。
一方、プラント建設や住宅設備の部品供給に遅れが生じるなど、日本経済を支えるインフラや住宅産業へも影響は及び始めている。緊急座談会の最終回(第4回)は、インフラ分野の担当記者が話し合った。

感染恐れ、病院へ行く人が減っている

デスク)新型コロナウイルスの感染が広がり、医薬品企業は大忙しではないの?

記者A)「受診控え」が痛い。

デスク)どういうこと?

A)病院へ行く人が減っている。医薬品卸の担当者が言うには、高血圧や糖尿病といった慢性疾患の人や、症状の軽い人が、病院での受診を控えるようになっている。病院へ来て新型コロナウイルスに感染することを恐れているのだという。

受診控えが起きているため、医療機関が処方する薬が減り、製薬企業や医薬品卸の業績を下押しするかもしれないね。

デスク)病院へ行かなくなっているのは患者だけ?

A)いや。MR(医薬情報担当者)もだ。製薬会社のMRが医療機関へ訪問することを自粛する動きが広がっている。

ファイザー日本法人など外資系大手だけでなく、沢井製薬など後発医薬品大手も自粛している。武田薬品工業やアステラス製薬といった大手製薬では、MRの在宅勤務が推奨されているよ。

ただ、後発品メーカーへの業績影響が心配だね。後発品は毎年6月に多くの新商品が発売される。2月ぐらいから販促活動に力を入れ始めるので、いまのタイミングでMRの訪問自粛は痛いはずだ。

B)総合商社では、三菱商事と住友商事が国内社員の原則在宅勤務を義務づけた。ほかの商社でもテレワークの推奨などをしている。三菱商事では約3800人、住友商事では約4000人が在宅勤務となったよ。

住友商事の場合、もともと今夏の東京五輪開催を見据えてテレワークを推進していたので、突然の在宅勤務義務化でも混乱なく対応できたようだね。

C)プラント業界ではプラント建設の遅れが懸念されている。千代田化工建設や日揮は大型プラントを建設するとき、一部でモジュール工法を活用している。プラント建設現場での作業を減らすために、建設現場とは別の場所で配管などの構成要素(モジュール)を造り、建設現場に運んで組み立てるんだが、千代化も日揮もそのモジュールの製作を中国などで行っているんだ。

現状、モジュール製作に遅れは出ていないが、新型コロナの影響が長引いてモジュール製作が遅延するようなことがあれば、大型プロジェクトの工期が遅れる懸念もありそうだ。

感染者が出ても民間工事は中止できない

デスク)伊藤忠商事では新型コロナウイルスに感染した社員が出たよね。

B)ブラジルのサンパウロに駐在している50代社員が感染した。2月23日から休暇で日本に帰国し、実家のある福岡県に2月29日まで滞在していた。この間、伊藤忠の本社や支社などには出社していなかったが、サンパウロに帰任して通常どおり勤務していたところ、検査をしたら新型コロナウイルスに罹患(りかん)していることがわかった。

C)千代田化工の派遣社員でも感染者が出たが、本人の治療はすでに終了している。社内の濃厚接触者も発症は確認されていない。持病を持つ社員は在宅勤務をしており、業務に大きな影響は出ていないそうだよ。

D)建設業界では、熊本県で土木作業員2人、千葉県で現場警備員の1人の発症が確認された。準大手ゼネコンの五洋建設でも営業担当者1人が感染した。