幸いにして現在はネットの発達でライブ配信が可能になり、規模の大小を問わず無観客開催の意義が深くなりました。その意味では、もし現在の状況が好転せず、今後も大規模イベントの自粛が続いたら、プロ野球やJリーグは今年度の入場料収入を減らしてでも、無観客開催に踏み切るのではないでしょうか。
ジャンルを問わずすべてのエンターテインメントは、目の前の利益を減らしてでも、選手や出演者とファンの距離を離してはいけないのです。それだけに「学生」「教育」が絡むもの以外の中止はできるだけ避けるのが望ましいが、長引いたときは延期にも限界がある。「配信での収入増などのダメージコントロールをしつつ、できる限り無観客開催を続けながら収束するのを待つ」という形に収斂されていくでしょう。
入場料収入に頼らないビジネスモデルのエンターテインメントは、在宅率が上がる現在の状況では一概にピンチとは言い切れません。事実、テレビ番組の視聴率は少しずつ上がっていますし、人気も数字も右肩上がりの「テセウスの船」「恋はつづくよどこまでも」(TBS系)のようなドラマもありますが、それでも制作現場はピリピリとしたムードに包まれています。
出演者やスタッフの中で感染者が出たら、番組の制作・放送ができなくなるリスクが高いため、各局では一般企業以上に予防意識を徹底。とくに新型コロナウイルスのニュースを扱う報道・情報番組は、「絶対に感染者を出してはいけない」というプレッシャーの中で制作・放送されています。
また、「しゃべくり007」(日本テレビ系)、「ミュージックステーション」(テレビ朝日系)、「VS嵐」(フジテレビ系)のような番組観覧者のリアクションを演出に加えている番組は無観客での新たな対応を余儀なくされていますし、グルメなどのいわゆる街ブラ番組も撮影を大幅に縮小。ドラマもスタジオに出入りする人数を減らし、エキストラを使うことも難しいそうです。
なかでも象徴的だったのは、「初の無観客開催が審査結果に影響を及ぼした」と一部で批判を集めた3月8日放送の「R-1ぐらんぷり2020」(フジテレビ系)。芸人たちがお笑い番組やオーディションで無観客に慣れているため影響が少なかった一方、審査員たちは例年のように観客の反応を審査に加味できず、世間の見方と乖離して批判を招いてしまったのです。このように無観客になったことで思わぬ影響を受ける番組は多く、まだまだ視聴者が違和感を抱くシーンが頻発するでしょう。
それでもやはりテレビ番組にとって現在の状況は多くの人々に見てもらうチャンスであり、無観客はあっても延期や中止は考えられません。逆に、出演者やスタッフの中で感染者を出したら延期や中止になってしまう可能性が高いため、無観客なのはもちろん、できるだけ機能的でコンパクトな撮影体制が求められているのです。
数多くのエンタメが無観客、延期、中止になったことでネット上には、「観客がいないと、せっかくの好プレーが淡々としたものに見えてしまう」「選手(出演者)にとって大切な旬の時間が失われてしまった」「あとで中止にするくらいなら最初から無観客とか延期とか言うな」「絶対に満員電車ほど濃厚接触じゃないのにエンタメだけが犠牲になっている」「無観客でもちゃんと選手たちにお金は払われるのか」などのネガティブな声が飛び交っています。
さらに、「センバツ中止で経済損失289億円」「ウイルスによるライブ中止では保険がおりず倒産の危機」「大相撲の懸賞が激減して横綱・白鵬でもわずか1本のみ」などの報道もあり、エンタメ界は暗いムード一色。しかし、今回の機会はネガティブばかりではなく、「エンタメのあり方やファンとの関係性を考えるいいチャンス」というポジティブな見方も可能なのです。