私が初めて「ピック・スリー」と口にしたのは、いらいらに耐えかねてのことだった。
ある会議にパネリストとして出席したとき、司会者にこんな質問を投げかけられたのだ。
「ランディさん、あなたは母親なのに仕事もしていますね。仕事と家庭はどうやり繰りしているのですか?」。この質問、もう100回は聞かれたはずだ。
言うまでもなく、男性のパネリストにそんなことはだれも尋ねない。優れた母親になるためのスキル(効率よく働く、優先順位をつける、長期的な見通しを立てる、忍耐強くある、創造力を使う)は、優れた従業員や起業家になるためのスキルとぴったり一致するから、その古き叡智を自分たち男にも授けてほしいというわけなのだろうか。
こうした質問をされると(つまり、会議に出るたび)、私は奥歯をぎりっとかみしめ、作り笑いをしながら、だれでも思いつきそうな答えを返す。あのとき以外は。
あの会議ではもうそれ以上、くだらない質問に答える力を振り絞れなかった。仕事と家庭の両立について無邪気に尋ねる司会者に対して、私は首を横に振り、「やり繰りできていません」と言った。
「私がなんとかできているのは、毎日3つのタスクをきっちりこなすことくらいです。だから、毎朝こんなふうに自分に問いかけます。『仕事、睡眠、家族、運動、友人。3つ選ぼう(ピック・スリー)』。
翌日に違う3つを選んだり、その翌日にまた別の3つを選んだりすることもあります。でも、その日は3つだけ。そうやってまんべんなく選べば、いずれすべてのバランスを取れます。起業家は仕事以外の時間をなかなか取りにくいものですが、そうしたジレンマも解消できますよ」
するとたちまち、世界中のビジネス系メディアがこの発言を取り上げた。ピック・スリーが「バズった」のだ。
のちに私は、このジレンマが起業家だけのものではないと気づいた。それは、みんなのジレンマだった。職業、住んでいる場所、背負っている責任は違っても、だれもがすべてを手にしようと、少なからぬ犠牲を払い、何かに取り組み、エネルギーを費やしている。
しばらくして私は、それを「起業家のジレンマ」から「ピック・スリー」と言い換えた。この呼び方なら、もっと多くの人に自分の問題だと感じてもらえるし、よりわかりやすくアイデアを伝えられると思ったのだ。
私が提唱するピックスリーのルールは簡単だ。まず、自分の人生にとって欠かせない大切なカテゴリーを5つ選ぶ。そして毎日、その中から3つを選び、実践する。それだけだ。
最初に断っておくけれど、あなたは5つぜんぶを選べない。今日だけでなく、どんな日にも。ピック・スリーの達人になりたければ、「選ぶのは3つだけ」と腹をくくろう。
それから、選ばなかった2つについて、1秒たりとも罪悪感ややましさを抱かないこと。明日になれば(もしくは明後日、でなければ来月)、また選ぶチャンスはあるから。選べる日はきっとくる。その日に集中するカテゴリーは、毎日新しく選ぶ。前日と同じ3つを選んでもいいし、気分を変えて別の3つを選んでもいい。どれを選ぶかは、完全にあなたの自由。平日のピック・スリーと週末のピック・スリーが違ったり、夏のピック・スリーと冬のピック・スリーがあったりしてもいい。もちろん、毎日変えてもいい。