「ビクトリアは悪魔そのものです。私の家族、人生、母、すべてを奪った……」
ナディアは殺された母の復讐を誓い、ニューヨークに戻った後も執念の捜索を続けていた。
ビクトリアはどこへ逃げたのか? 国際指名手配犯の潜伏先を見つけたのは、ナディアだった。それは生前、母から聞かされていたビクトリア・ナシロワのフェイスブック。驚くことに逃亡中もニックネームで写真を投稿し続けていたのだ。まるでセレブのように、きらびやかな生活を写した自撮り写真ばかりを……。そんな憎きビクトリアの潜伏先。なんとそこは、娘・ナディアの住むニューヨークだった。
そこでナディアは、ある敏腕探偵にビクトリア捜索を依頼する。ニューヨーク市警に20年勤務したハーマン・ワイズバーグだ。
「これは私のキャリアで、最もやりがいのある事件になると思いました。国際指名手配中の逃亡犯を追いかけるなんて初めてでしたから」
ハーマンはすぐに、ビクトリアがネット上に残した“手がかり”に気づいた。
それはフェイスブックに投稿された1枚の写真。
よく見ると、サングラスのレンズに車のダッシュボードが映っていることがわかる。「ナビの画面」の上に、「アナログ時計」という特徴的なデザインだった。
ハーマンは、そのダッシュボードをひたすら探し歩く。そして、アメリカ製高級セダンのデザインと一致。ビクトリアが乗っている車を突き止めたのだ。
さらにハーマンは、ビクトリアがフェイスブックで「いいね!」する店が、ブルックリンのロシア人街に集中していることに気づき、周辺を捜索。
すると、“ビクトリアの乗る高級車”が一軒のアパートの前で停まっているのを発見したのだ。
さらに、そのアパートの前にある「電柱」「電線」「マンホール」……ビクトリアが室内で撮影した自撮り写真のサングラスに映っていた「窓の外の景色」とピタリと一致したのだ。
ハーマンは、サングラスに映った手がかりから、ビクトリアの住む部屋の特定に成功した。
なんとそこは、娘・ナディアの家からわずか1kmしか離れていない場所。母親の仇は、追跡を続ける娘の「目と鼻の先」にいたのだ。
その頃、悪女・ビクトリアは逃亡先のニューヨークでも、複数の被害者から金品を奪う犯行を繰り返していた。そして、2016年6月、出会い系サイトで知り合った男性を部屋に招き、手料理に薬物を混入する「昏睡強盗事件」を起こす。
「ビクトリアは魚とグリーンピースのすてきな料理を振る舞ってくれたんだ。料理を一口食べたら、ほんの2分で意識がなくなったんだよ」
被害者は、クリーニング店主のルーベン・ボロコフ。2日間意識を失ったが、一命は取り留めた。その間、ビクトリアは彼のクレジットカードで30万円近い宝石類を買い、さらに現金1000ドル(約11万円)を盗んでいた。
そしてビクトリアは再び国外逃亡を画策する。国際指名手配犯がアメリカから出るためには、偽のパスポートが必要だ。そこで企てたのが「自分そっくりの美女を殺し、彼女の人生になりすますこと」
それが、2016年8月に起きた“ドッペルゲンガー殺人”。この悪魔のような計画のターゲットになったのは、ウクライナ出身のオルガ・ツウィク。自分に似たオルガを見つけたビクトリアは、彼女が働く美容サロンに半年間、客として通い、友人関係になったうえで「毒入りチーズケーキ」を食べさせたのだ。