前回の記事で書きましたが、「箇条書きのリスト」には、物事をスッキリさせる効果と、ハッキリさせる効果の2つがあります。箇条書きのリストを「まったく書いたことがない」という人は、おそらくいないと思いますが、この2つの効果については、あまり意識されていないようです。
例えば「てこの原理」はあらゆる機械や、操作を必要とする製品に応用されている基本的な作動原理ですが、私たちが部屋の電気のスイッチをパチンと入れる際にその原理を意識することはありません。それと同じで、箇条書きのリストは紙にメモを残すのと同じくらいに基本的な方法であるために、多くの人が使っているにもかかわらず、その効果はほとんど意識されることがないのです。
しかし歴史をひもとけば、リストはあらゆる国や文化で使われていることがわかりますし、著名な作家や芸術家が残したリストも数多く知られています。
例えば大英博物館には紀元前13世紀、ラムセス2世の時代のエジプトでパピルスに書かれた夢占いのリストが収蔵されています。レオナルド・ダ・ヴィンチが書きつけた「解剖学的に興味のある事柄」のリストも伝わっています。ジョン・レノンが記者のインタビューに答えて書いたリストもあれば、歌手のマドンナが毎日の仕事や会社の経営のためにリストを手放さないという逸話もあります。
リストは、ペンと紙を持った人ならば誰もが一度は使ったことがあるほどありふれたものなのです。
リストは膨大な記憶や知識の整理もしてくれます。仏教は十二縁起や四諦といった形で教えをわかりやすく分解して説明していますし、キリスト教の教理問答のようなものも知識をリスト化しているといってもいいでしょう。パスカルの『パンセ』のように考えや感興を断章という形でリスト的に列挙しているケースもあれば、『万葉集』のようにまさにリストの形で情報を編さんしている本も限りなく存在します。
私たちにとって呼吸することが自然であるのと同じくらい、思考をするときにものごとを箇条書きにして整理することは自然であり、当たり前といってもいいのです。
リストというと最初に思い浮かべるのは「やることリスト」だと思います。
毎日の仕事を始める前に、「すぐに実行しなければいけない、緊急性の高い仕事」を箇条書きにして、「やることリスト」を作っている人は多いはずです。
では、緊急性は低いものの、重要性が高いタスクについてはどうでしょうか。
アメリカ第34代大統領のドワイト・アイゼンハワー氏は「私は2つの問題を抱えている、1つは緊急でもう片方は重要なものだ。しかし、緊急なものは重要ではなく、重要なものは決して緊急であることがないのだ」と語ったとされていますが、その言葉から「アイゼンハワー・マトリクス」という、タスクの重要性を測る手法が生まれました。すべての仕事を、緊急性と重要度という2軸で評価する有名な方法です。
やることリストの中に入りがちなのは緊急で重要性の高いタスクと、緊急で重要度の低いタスクの2種類です。非緊急ですが重要な、長期的にみた成長のための投資や、スキル習得といったタスクは、やることリストからはどうしても抜け落ち気味です。