実際に筆者が中国でも最先端といわれる都市、深圳(しんせん)に行った際には日本と大きく異なるシェアサイクル利用の姿を見た。まず、まちを走る自動車の多くは電気自動車やハイブリッド車で静かな中、シェアサイクルのベルの音が目立ち、至る所にシェアサイクルが乗り捨てられていた。次に、通りがかった大きな公園では子どもがMobikeのシェアサイクルに乗って遊んでいた。筆者は子どもの遊びでシェアサイクルが使われるというのは想像しておらず、とくに印象に残っている。
深圳のように生活に根付いている中国のシェアサイクル。2016年頃までは北京を中心に成長したofoとMobikeが強かった。そしてこの2社は日本へも上陸している。Mobikeは2017年に日本法人を設立したうえで札幌市や福岡市、奈良市などでサービスを開始。ofoは2018年春に和歌山市、北九州市、大津市で相次いでサービスを開始した。
しかし、ofoは2018年10月末に1年と待たずに突如撤退した。Mobikeも大きな展開はなく、自転車こそあっても、ほぼ日本から撤退している状態だ。なぜこのような展開になったのか。原因は中国のシェアサイクル事情にある。
ofoやMobikeは資金調達に苦労していた。もちろんサービスは広がっていっていたが、ビジネスモデルを生み出せなかったのだ。さらにメンテナンスの問題や地方政府の台数規制が追い打ちをかけた。
そこで業界再編が起きた。ofoは2018年にほぼ破産状態に陥り、デポジット返済をめぐって大きなトラブルとなった。Mobikeはフードデリバリーで急成長する美団点評に買収され、その後事業縮小となった。
直近ではアリババグループから資金提供を受けた青のHellobike(哈羅単車)や自動車の配車アプリを起点に成長したDiDiがBluegogoを買収して生まれたDidibike(青桔単車)が目立つ。とくにHellobikeは地方都市で大きくシェアを伸ばしてきたのがここにきて強みとなっている。
こうした中国の状況に対し、少し違ったシェアサイクルの展開を見せているのが台湾だ。台湾では台北で2009年にサービスを開始し、ジャイアントの自転車を利用した「YouBike」が北西部を中心に展開している。また、台湾第2の都市、高雄では同市の地下鉄を運行する高雄メトロが運営する「City Bike」がある。
台湾のシェアサイクルで特徴的なのは、行政の積極的な関与だ。台北も高雄も行政が主体となってシェアサイクルを整備し、民間に運営を行わせているほか、必要に応じて補助金も出している。
そして乗り捨てではなく、シェアサイクル専用の駐輪場(ポート)を設置している。しかも駅前やデパート、ショッピングモールの横など需要が大きそうな場所に積極的にポートを配置している。決済はアプリではなく、ICカードやクレジットカードで行う。そのため、海外からの旅行者でも比較的利用しやすい。筆者も台湾へ行ったときはまちを見て回るためによく利用している。
また、しっかりと需要や駐輪台数を見て自転車の再配置を行っている印象が強い。そのためか、日本のシェアサイクルよりも回転率(1日1台当たりの利用回数)が高い傾向にある。しかし、台湾のシェアサイクルは決してビジネスのためだけに行っているという印象は受けない。