「すごい人」と知り合いたがる輩に欠けた視点

やたらに「すごい人」を知り合いたがる人は何を求めているのか(写真:komaer/PIXTA)
プレゼンの達人として知られる伊藤羊一氏。ヤフーの企業内大学である「Yahoo! アカデミア」の学長として活躍する伊藤氏だが、実はかつて「夢も目標もないダメ社員」だったと言い、数々の大失敗をしてきたと語る。
そんな自身の成功と失敗の経験から見出した教訓をまとめた初の仕事論『やりたいことなんて、なくていい。将来の不安と焦りがなくなるキャリア講義』から、「なぜか周りに助けられる人の共通点」を紹介する。

顧客の声を徹底的に聞いて回った

コミュニケーションについて言えば、「人に聞くことの威力」はとても大きいと思います。30代のあるとき、私は文具・オフィス家具製造流通のプラスで、既存事業の営業指導や、マーケティング戦略の策定といった仕事をしながら、新しいプロジェクトにとりかかっていました。

それは、プラスが別事業部にて行っていた小中学校向け用品のデリバリーサービスを、自分の属していたカンパニーで統合し、全面的にブラッシュアップするというプロジェクト。事業戦略からカタログづくり、物流や基幹システムの統合まで含めた大改革です。このプロジェクトを実行するにあたり、まずは基本となる「100日プラン」を立てることにしました。

このときに、「まずは、お客様の声を徹底的に聞こう」と考えました。
そこで、基本的な戦略を立てる前に、何十校も学校を回って、事務用品の購買を担当している方々に直接話を聞きまくりました。

現場で事実を集めたら、それを「So what?」=「つまり、どういうこと?」と自分に問うことで、抽象化していきました。「つまり、どういうサービスが求められているのか?」を明確化していったのです。

現場で直接話を聞けば、全体像が見えてきて、それが戦略のベースになります。このベースに基づいて、営業戦略、カタログ掲載アイテムの構成などを練っていきました。

こうしてできあがった戦略ですから、説得力が違います。プロジェクトについて経営陣にプレゼンした際には、「その戦略でいいのか?」といった突っ込みも当然あります。しかし、何を言われても、「とはいえ、お客様に直接聞いた結果がこれですから」と自信を持って言うことができたのです。

現地・現物にあたれ

プロジェクトの戦略を立てるにあたって、まずは徹底的にお客様の話を聞こうと思った理由は簡単。「わからないから」です。

そもそも私自身、学校の消耗品マーケットのことをほとんど知りませんでした。ちょっと見聞きした感触では、学校マーケットはそれまで担当していた企業のオフィス対象の世界とはずいぶん違いそうだ。でも、それ以上のことはわからない。何がわかっていないのかさえ、まだわからない――。だから、「じゃあ、聞くしかないな」という発想です。

これは特別な発想ではありません。「現地・現物にあたれ」というのは、ビジネスの肝としてよく語られることです。たしかに、現地・現物が教えてくれることはとても多いもの。

本来であれば、たとえ「自分はある程度知っている」と思っている分野であっても、自信を持って判断するためには、まずは現地・現物にあたって情報を集めるという姿勢で臨みましょう。仕事ができる人というのは、まずはそういう姿勢で動いています。

少なくとも「知らないこと」「わからないこと」については徹底的に人に聞くこと。これは、当たり前のことだと思うのですが、意外とできている人が少ないのが現実です。

私は、自分の頭がいいとは思っておらず、人にとにかく聞こう、と思っています。しかし、頭がいいと自認している人は、ついつい自分で考えて答えを出そうとしてしまうのかもしれません。