2年ぶりに箱根駅伝の優勝を果たすことができました。青山学院大学陸上競技部(以下、青学陸上競技部)が、大学駅伝の歴史にまたひとつ大きな足跡を残せたのではないかと思っています。
しかし、私が青学陸上競技部の監督に就任した2004年当時は、箱根駅伝の予選会さえ通過できない弱いチームでした。ようやくチームが結果を出し始めたのは、2008年です。33年ぶりに予選会を突破し、2009年1月の箱根駅伝本選に出場しました。翌年の本選では、8位に入賞してシード権を獲得したことが思い出されます。
選手たちは自信を持ってレースに挑み、笑顔で走り切って、結果を出してくれました。私は、彼らがこれからの日本陸上界を支える貴重な人材になったり、企業に就職してその会社を支える有益な人材になってくれると思っています。そのために、箱根駅伝や陸上競技を通して彼らを成長させていくことが私の役割だと思っています。
「強いチームをつくるうえで、監督の役割は?」――。
よく聞かれる質問です。私の理想は、監督が指示を出さなくても部員それぞれがやるべきことを考えて、実行できるチームです。つまり、指示待ち集団ではなく、「考える」集団。言葉にするのは簡単ですが、考える集団をつくるには、豊かに実る土壌づくりと同様に相応の時間と労力が必要です。
人は結果をすぐに求めたがりますが、強いチームをつくるための土壌、つまり環境はすぐに構築できるわけではありません。ただ、その環境を整えれば、誰が監督になっても強いチームであり続けることができると私は考えています。
しかし、スポーツ界では監督が交代することで弱体化する光景をよく見ます。一般の企業はどうでしょうか? 経営者が代わってもそれまでと同じ、あるいはそれ以上に成長していく企業はたくさんあります。スポーツ界でも同じことができるはずだと私は考えて、青学陸上競技部と向き合ってきました。
自分で考え、実行できるチームをつくるために、私が最初に取り組んだのは、部員を「相談できる人」に育てることでした。相談するとはどういうことか。たとえば、選手が「足が痛いです」と私に言ってきたとします。しかし、それは相談ではなく報告です。
だから私は、選手にこう問いかけます。「それで? 」。続けて、「いつからどこが痛いの?」「治るまで1週間? 10日? 1カ月? 」と質問を広げていきます。さらに、「治るまで1カ月かかるなら、いつまでに治すように努力するの? 」「それまでにできるトレーニングはA・B・Cがあるけど、どの方法でやってみたい? 」と具体的にしていきます。
そして、「今回はトレーニングAにしたいと考えていますが、監督はどう思いますか?」と自分で答えを出すところまで求めます。そのとき、それが本当の相談であると部員に話すようにしていました。
部員からの提案や直訴を嫌がる監督もいますが、それでは監督の指示を仰ぐ部員やスタッフばかりになってしまいます。たとえば、夏合宿で陸上競技部のマネジャーが練習時間について、「今日のスタートは何時にしますか? 」と聞きに来たとします。指示を出したい監督であれば、「○時からこのグラウンドで、こういうトレーニングをする」と伝えて終わりでしょう。