【日本人必読!】”トランプ外交”大解剖、政権がもくろむ「新・悪の枢軸」の分断、日米同盟強化に日本がすべきこと

2024.12.23 Wedge ONLINE

 停戦が実現すれば、双方が占領している領土の返還についての交渉も後押しすることになるだろう。ロシアが停戦に応じれば、トランプ氏側近は経済制裁の解除や外交関係の改善、ロシアの主要国首脳会議への復帰(G7からかつてのG8へ)などを通じて、中露の離間ができると考えている。

 また、トランプ氏は中東のガザとレバノンでの紛争解決を図りたいと考えており、イスラエルのネタニヤフ首相に圧力をかけるだろう。激戦州ミシガンではムスリム票の動向がトランプ氏の勝利につながっており、選挙後にパレスチナ暫定政府のアッバス議長と電話会談を行うなど、2期目のトランプ政権はパレスチナへの配慮も欠かさないだろう。

 一方、ハマスとヒズボラの後ろ盾になっているイランへの経済制裁を復活させ、軍事面も含めて最大限の圧力をかけることで、イスラエルが停戦を決断しやすい環境をつくり出していくだろう。イスラエルとヒズボラは期限付き停戦で合意したものの、イスラエル軍の空爆により、双方が「停戦合意違反」を主張する状態が続いている。

 イランも国連大使をトランプ氏の側近となったイーロン・マスク氏に会わせるなど、トランプ氏との関係改善を模索している様子がうかがえる。トランプ氏側近は、中東が安定すれば、イランと中国の関係にもくさびを打ち込むことが可能になると考えている。

 北朝鮮には非核化ではなく、軍備管理交渉を呼びかけるだろう。トランプ氏側近は、北朝鮮が破綻した非核化交渉に再度応じないことを理解している。軍備管理交渉の前提は北朝鮮を公式に核保有国と認めることが必要になるが、トランプ氏はこのまま北朝鮮が核ミサイル戦力の増強を続け、米国に対する脅威がさらに増すことよりも、軍備管理によって歯止めをかけることを重視するだろう。北朝鮮を核保有国と認めても、イランに対して最大限の圧力をかけていれば、イランの核保有を防げるとも考えている。なにより、北朝鮮との関係改善によって、北朝鮮の中国に対する依存度が下がることを期待している。

 以上のような外交がCRINKの分断につながるかどうかは予断を許さない。ロシアがウクライナ領土を占領したままで停戦を仲介することや、ロシアのG8への復帰、北朝鮮を核保有国として認めることは国際社会に波紋を広げるであろう。

 しかし、これが2期目のトランプ外交の大枠になることを前提に日本も対外政策を立て直す必要がある。

安全保障は米国に委ねる
そんな時代はもう終わった

 大統領選で明らかになったように、米国民にとってはウクライナの戦況よりも明日の自分の生活の方が重要である。米国が「世界の警察官」としての指導力を発揮した第二次世界大戦以降は例外的な状況であり、米国は本来の姿(アメリカ・ファースト)に戻ることになる。「安全保障は米国に委ねる」という甘い蜜をもはや吸うことはできなくなり、米国の同盟国がさらなる自助努力を求められる時代が幕を開ける。

 石破茂首相はアジア版NATOの創設や日米地位協定の見直しを提起したが、欧州のNATOすら好まず、同盟に公平な負担を求めるトランプ氏には全く相手にされないだろう。24年4月に自民党副総裁(当時)の麻生太郎氏と面会したトランプ氏は、日本の防衛予算の増額や反撃能力の導入の方針を歓迎すると発言した。だが、防衛予算が増額されても、現在は円安が進み、当初の予算規模では想定していた防衛装備品を購入できないという問題が生じている。これでは、いつトランプ氏から自助努力が足りないと批判されてもおかしくない。円安を踏まえ、装備品の購入計画を早急に考え直す必要がある。

 また、米国は日本に対し、能動的サイバー防御(ACD)の導入や機微な情報の保全、日米の防衛産業間の連携などを求めている。特に、米国の造船産業の衰退は深刻で、1年に2隻の原子力潜水艦をつくる必要があるところ、現状の能力では1隻しか製造できず、同盟国としても看過できない状況にある。米国の即応体制を維持強化するために、防衛産業レベルで貢献することが重要であり、米国の造船業界に日本企業からの投資を促すことが必要であろう。自らの自助努力をしつつ、米国との協力関係を新たな段階に引き上げていくべきだ。

 日本政府は昨年来、「もしトラ」前提でトランプ陣営の良識派とのネットワークを深化させてきたが、トランプ政権に入るであろうMAGA派の人材と深い話ができるようなネットワークは築けていない。日米同盟を強化していくうえで、人的ネットワークの構築や立て直しが急務である。