事前の世論調査では大接戦が予想されていた米大統領選はトランプ氏の勝利が即日判明し、同時に行われた連邦議会選挙でも共和党が上下両院で多数派を占め、いわゆるトリプル・レッドに終わった。
2016年もトリプル・レッドであったが、当時との違いは連邦最高裁判所の構成である。16年は最高裁でリベラル派の判事が多数を占めており、トランプ氏が出したムスリム国からの入国禁止などの大統領令は司法によって差し止められた。しかし、その後トランプ氏が3人の保守派の判事を任命したため、現在は保守派が多数派となっている。このため、トランプ氏は絶大な権限を持って大統領に返り咲くことになる。
今回の選挙が大接戦であったことは間違いない。一般投票数でもトランプ氏とハリス氏の差は1.5ポイントほどである(本稿執筆の11月末時点)。激戦州のうち中西部ペンシルベニア州、ミシガン州、ウィスコンシン州でも差は2ポイント以内である。
出口調査をみる限り、勝敗を決したのはヒスパニック票、とりわけ男性票であったと考えられる。20年にヒスパニック系男性でトランプ氏に投票したのは36%であったが、今回は54%が投票している。ヒスパニック系の男性は元来保守的で学歴は高卒以下の比率が高く、バイデン政権の経済政策に不満を持っていたことが要因であろう。Z世代と呼ばれる若者も51%がトランプ氏に投票しており、米社会は多様性への反発から保守化している可能性がある。
トランプ氏は、まず減税や規制緩和で経済の立て直しを図り、関税政策を通じて国内に製造業を取り戻すことに尽力することになる。一方、関税の引き上げや労働力となっている不法移民の送還はインフレにつながる可能性がある。2年後に控える中間選挙までに、米国経済が上向き、国内の産業構造をどれだけ変化させ、雇用創出につなげられるかが勝敗を分ける一つのポイントになる。
民主党は裕福なエリートの党と化しているが、それが世論の反発を受けていることにまだ気づいておらず、態勢の立て直しはそう簡単にはいかないだろう。2年後の経済状況にかかわらず、共和党優勢の流れが当面続く可能性もある。
米国の安全保障政策については、トランプ氏に忠誠を誓うルビオ氏やウォルツ氏ら対中強硬派が国務長官や安保担当補佐官などの閣僚級候補に指名されており、米国第一主義と「力による平和」に基づく政策が追求されるだろう。米国は欧州と中東から手を引き、アジアを正面に備えるという政策に転換しつつ、同盟国にはさらなる負担の分担を求めることになるとみられる。さらに、中国と対峙するうえで、ロシア、イラン、北朝鮮を含む「新・悪の枢軸(CRINK)」が最大の障害であり、これらの国々にどのようにくさびを打ち込むかが大きな課題になる。
トランプ氏側近たちがCRINK分断の前提と考えているのが、ロシア・ウクライナ戦争の停戦である。中国、イラン、北朝鮮はいずれもロシアを支援しており、ウクライナでの停戦を実現しない限り四者の協力関係は強化されていくからだ。
トランプ氏はウクライナへの武器支援の継続と引き換えに、ゼレンスキー大統領にプーチン大統領との停戦交渉の受け入れと、北大西洋条約機構(NATO)への加盟の棚上げを求めようとしている。欧州の支援だけでは継戦は困難で、ウクライナも受け入れると考えている。一方、プーチン氏が停戦交渉に応じない場合は、ウクライナへの武器支援をさらに強化する方針を示し、何としても交渉の場に引きずり出そうと考えている。