トヨタに次ぐ世界第2位の自動車メーカー、フォルクスワーゲン(VW)グループが電気自動車(EV)販売台数の伸び悩み、価格競争力の低下や中国事業の不振などにより危機に直面している。ドイツ大手企業の苦境は我々にとっても対岸の火事ではない。
2024年9月にVWグループの経営陣が発表したリストラ計画の内容は、同社の従業員だけではなく政府、産業界にも衝撃を与えた。同グループは中核セクション・VW乗用車部門の低利益率を改善するために、国内10カ所の工場の内少なくとも3カ所を閉鎖し、国内で働く約12万人の従業員の内数万人を解雇する方針を打ち出した。
解雇を免れる従業員の賃金も10%カットする。経営側は経費を少なくとも100億ユーロ(1兆6000億円・1ユーロ=160円換算)節約することを目指している。
VWグループは1938年の創業以来、国内工場を閉鎖したことは一度もない。VW国内部門の従業員たちは、これまで「雇用保証協定」によって、解雇から守られていたが、経営陣はこの協定を破棄した。25年7月から解雇が可能になる。
労組側は工場閉鎖を防ぐために、11月21日、賃金引き下げや、労働時間の短縮による15億ユーロの経費削減(2400億円)などを含む対案を示したが、経営側は「不十分だ」と拒否。このため労組側は12月2日に、時間を限った警告ストを開始した。双方の主張が平行線をたどった場合、25年には労組が国内の全工場で生産ラインを停止させ、無期限ストに突入する可能性もある。
ドイツの大企業の経営陣は通常、労組と友好的な関係にある。この国の大企業では、「合意に基づく経営(Mitbestimmung)」の原則に基づき、労組の代表が取締役会を監督する監査役会のメンバーとなり、経営に間接的に参加するほどだ。だが今回のVWグループの経営陣が示した、過去になかった厳しいリストラ計画は、同社の置かれた状況の深刻さを浮き彫りにしている。
経営陣が最も問題視しているのは、国内のVW乗用車部門の収益性の低さだ。この部門の24年上半期の営業利益率は2.3%で、高級車ブランドであるポルシェの15.7%、アウディの6.4%に比べて大幅に低い。経営学の世界では、営業利益率は5%を上回る必要があるとされている。
VWグループは、今後コネクテッドカーの開発などに多額の投資を必要とする。しかしVWグループのフラッグシップ(旗艦)である乗用車部門の営業利益率が5%に達していない状態では、投資が集まらない。
低収益性の原因の一つは、人件費の高さ。VWグループはドイツ政府に手厚く守られた過保護企業だ。
VWグループの議決行使権付き株式の20.2%はニーダーザクセン州政府が持っている。ドイツ政府は「VW法」という法律によって、外国企業が同社を買収しようとしても、ニーダーザクセン州政府が議決をブロックできるようにした。
ドイツの株式法によると、議決行使権付き株式の25%を持たないと、このような拒否権を行使できないが、VWだけは特別に外国企業の干渉から保護されているのだ。州政府が経営に参加しているので、州の失業率が急増するような改革に踏み切れないという問題点もあった。
また通常ドイツの製造業界の賃金協定は、全金属産業組合(IGメタル)が経営団体と交渉して決める。だがVWの従業員たちは、「ハウス・タリフ」と呼ばれる、IGメタルの賃金協定を上回る賃金水準を与えられていた。VWは、ドイツの自動車業界で最も給与水準が高い企業の一つとして知られる。