〈真相〉フォルクスワーゲンが犯した大きな二つの失敗、欧州最大の自動車メーカーの悲惨な末路、日本の産業界は何を学ぶべきか

2024.12.16 Wedge ONLINE

政府のBEV拡大政策を過信

 VWグループが犯した失敗の一つは、政府が購入補助金によるBEV(電池だけを使う電気自動車)の支援を続けると信じ、EV一辺倒の経営戦略を取ったことだ。ドイツ政府は30年までに1500万台のBEVを普及させるという目標を持っている。

 前のメルケル政権は、20年にコロナ禍に対する景気浮揚策の一環として、BEVなどの購入補助金の内、政府負担分を2倍に増やした。このためドイツでは一時的にBEVブームが起きた。BEVの年間販売台数は19年の約6万台から、23年には約52万台に増えた。

 VWはドイツ政府のBEV路線に最も忠実に従った企業だ。同社の乗用車部門のエムデンとツヴィッカウ工場では、内燃機関の車の生産をやめ、生産ラインをBEVに一本化した。同社の経営陣は「モビリティの未来はBEV」と繰り返し、ハイブリッド車を開発・販売しなかった。これに対しBMWやメルセデス・ベンツでは、VWに比べると、BEVに早くから一本化せず、水素や内燃機関の車にも含みを残す姿勢が目立った。

 ドイツ政府はコロナ禍、ウクライナ戦争などによる経済危機の際に、常に潤沢な補助金で市民・企業を支えてきた。だがこの治療法に、司法の鉄槌が下った。

 23年に連邦憲法裁判所がショルツ政権の過去の予算措置を憲法違反と判断したため、予算の内600億ユーロ(9兆6000億円)が無効になり、政府は深刻な財政難に陥った。このため政府は、24年末まで続ける予定だったBEV購入補助金(政府負担分)を、23年12月に突然廃止した。

 補助金廃止で、消費者はBEVに背を向けた。23年12月のBEV販売台数は約5万5000台だったが、24年1月には約2万2000台に減った。逆にハイブリッド車や、ガソリンまたはディーゼルエンジンを使った車の売れ行きが伸びた。

ドイツ・ミュンヘン市の路上で充電されるフォルクスワーゲンのBEV。充電インフラが十分でないことも、BEVの人気が低いことの一因だ。(筆者撮影)

 つまりVWは、政府の意向に沿ってBEVに全精力を集中していたが、突然政府の援護射撃を失った。ニーダーザクセン州政府のヴァイル首相も「昨年12月の補助金廃止は、失敗だった」と連邦政府を批判している。同首相はVWグループの監査役の一人として、同社のBEVシフトを積極的に支持した政治家の一人だ。

 VWの労組は、「経営陣がBEVを偏重し、ハイブリッド車を開発しなかったのは経営ミスだ」と批判している。

 ドイツの論壇では、「日本の自動車メーカーが、VWのように早くからBEVに経営資源を集中させず、様々な車種を併存させる戦略を取ったのは正解だった」という論調が増えている。

中国への過度な依存が裏目に

 VWグループが犯したもう一つのミスは、中国市場への過度な依存だ。今年9月、同社のアントリッツ財務担当取締役は、「これまでVWグループは、国内乗用車部門の低い収益率を、中国事業での収益によってカバーすることができた。しかし我が社の中国市場でのマーケットシェアは減っており、もはや中国からの収益に頼ることはできない」という趣旨の発言を行った。

 VWグループの年次報告書によると、23年にVWグループが世界で売った936万台の車の内、32.7%にあたる307万台が中国で売られた。だがVWは、中国の消費者が好む割安なBEVの開発に遅れており、マーケットシェアが下がりつつある。

 長年VWは中国の自動車市場で首位に立っていた。しかし今年1~9月のVWグループの中国での販売台数は、中国メーカー比亜迪(BYD)に初めて抜かれた。今年1~9月のVWグループの中国での販売台数は、前年同期比で11.5%減った。