2024年11月13日付フィナンシャル・タイムズ紙は、トランプが、規制改革、経費削減等を目的に設立を公約した政府効率化省を指導する役割にイーロン・マスクとビベック・ラマスワミを指名したことについて解説記事を掲げている。
トランプ次期大統領は、イーロン・マスクとビベック・ラマスワミを「政府効率部門」を率いるために指名し、政府全体を通じて規制緩和、官僚主義打破、支出削減に関する公約実現を担当させることとした。
世界で最も裕福で熱心なトランプ支持者であるマスクは、「民主主義への脅威か? いや、官僚主義への脅威だ!!」とXに投稿した。共和党予備選に出馬し、脱落してトランプを支持したバイオテクノロジー起業家のラマスワミはXに「我々はおとなしく行動するつもりはない@elonmusk」と投稿した。
トランプは、独立宣言から250周年にあたる2026年7月4日まで、2人は自分と行政管理予算局と共に働くと述べた。新部門の頭文字をとった「Doge」は、マスクが推進した暗号トークンの名前でもある。新たに創設されたホワイトハウスの諮問機関は、官僚主義を「解体」し、規制を「撤廃」し、支出を「削減」し、機構を「再編」する方法を模索するため「外部から政府への助言と指導を提供する」と、トランプは12日の声明で述べた。
マスクとラマスワミの指名は、トランプがフォックスニュースの司会者ピート・ヘグセスを国防長官に、元テキサス州下院議員のジョン・ラトクリフを中央情報局(CIA)長官に指名するなど、次期政権のトップチームを構築する中で行われた。
24年の選挙戦中、公にトランプを支持したマスクは、Xに彼を招き、ペンシルベニア州で彼のために集会を開き、1億7200万ドルの資金を提供したという。マスクは、選挙中、24年度予算の支出6.7兆ドルの内2兆ドルの削減を呼びかけ、火星の植民地化という彼の夢の障害となる規制を廃止するために、この選挙が重要だと述べていた。マスクのトランプへの賭けは、彼が経営する電気自動車(EV)メーカーのテスラにとって恩恵となり、その株価は過去1カ月で約50%急騰した。
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イーロン・マスクが大統領選挙4カ月前にトランプ支持を明確にし、支援の見返りに何を求めるのか注目されていた。この記事は特にそのような問題意識を踏まえたものではないが、この機会に留意すべき点を整理してみたい。
マスクの主要なビジネスは、電気自動車のテスラ、SNSプラットフォームのX、宇宙ビジネスのスペースXがある。マスクのトランプへの接近については、テスラの自動運転分野への事業拡大を目指しているにもかかわらず民主党政権の規制がその障害となっていたこと、また、スペースXは既に国防総省やNASAとの間でロケット打ち上げ等に多くの受注を獲得しているが、更に宇宙軍等国防部門での利権の拡大を期待している等のビジネス上の打算を指摘する見方が多い。
他方、2つの重要な問題でマスクとトランプは考え方が異なる。
1つは、気候変動問題で、マスクは温暖化防止を主張する環境保護派を自称し、そこにはビジネスとしてのEV車普及の狙いもあった。これに対してトランプは、エネルギー業界の利益を背景に、地球温暖化を認めず、バイデン政権のEV車普及や環境保護規制に反対しパリ協定より再度の脱退も目指している。
2つ目は、対中国関係である。テスラのビジネスの飛躍的拡大には、上海のEV工場と中国市場での成功が大きく貢献し、この点は中国も高く評価している。他方、最近では比亜迪(BYD)等中国EV企業に実績面で抜かれているが、テスラにとって依然として中国市場は重要であり、中国でも自動運転分野で巻き返しを図ろうとしている。