マスクはバイデン政権の中国のEV車に対する関税賦課に反対していた。他方、トランプは、中国製品が米国企業衰退の原因であるとして、中国からのすべての輸入に一律60%以上の関税を課すとも言っている。中国製のテスラは米国市場向けではないが、米中関係の対立がさらに深まれば、同社の中国ビジネスへの影響は免れないであろう。
他方、環境やテスラの問題よりも、マスクの関心は、むしろ宇宙ビジネスに重点が置かれているようにも見え、また、国際的な紛争や対立に関与する言動が目立つようになった。衛星インターネット・サービスを提供するスターリンクを運用するスペースX社は、日本を含む世界で広く利用されているが、ロシアのウクライナ侵攻直後ウクライナにスターリンクと大量の端末を無償で提供し、ウクライナにとって大きな支援となった。その後、ドローン等による軍事攻撃のためのスターリンクの使用を制限し、ウクライナの譲歩による停戦を示唆する等、マスクの立場は変化した。
当選後のトランプとゼレンスキーの電話会談にマスクも参加したことが伝えられ、また、マスクは、台湾に関して中国の不可分の一部であることを認め台湾が香港のように「中国の特別区」となることで紛争を回避できる等と示唆して台湾側から反発を招いたこともあり、その言動は「有力企業家」の枠を超えている。
これだけの政府の政策に利害関係を持つ企業家が、行政改革や予算配分に口を出すのは利益相反の問題や癒着ともなる可能性があるので、トランプは、「政府効率化省」を正式な政府の機関ではなく、大統領や政府に助言する諮問委員会のような役割と位置付けているようである。マスクは2兆ドルの経費削減が可能としているが、ウクライナやハイチ等への支援、公務員の大幅削減、海外の人権団体、政府開発援助(ODA)や国際機関拠出等の外交経費に影響が出ることが懸念される。