2024年10月12日付ニューヨーク・タイムズ紙は、カナダは長年、世界の中で最も移民に対して寛容な政策をとってきたが、国内で反発の声が高まり、方針を転換しているとする解説記事を掲載している。
カナダはかねてより外国からの留学生に対して、就労を許可するとともに、将来的に永住権につながる道を提供してきた。ところが、このところ、住宅、保健・医療等での問題が深刻化する中、その原因に移民の急増があるのではないかとの懸念の声が強まっている。それを受け、今年、一時的滞在者に対する一連の制限措置がとられ、外国からの留学生もその影響を受けている。
カナダへの留学は、カナダでの永住権という「カナディアン・ドリーム」を実現する一つの方途として、何十万という外国(特にインド)の若者を惹きつけてきた。留学生は、卒業後も就労可能で、合法的にカナダに滞在することを認められ、一時的滞在者として扱われてきた。
その結果、現在、カナダには一時的滞在者が300万人近くいるが、その内、220万人は過去2年間に来た者である。一時的滞在者はカナダの全人口4130万人の6.8%を占め、これは2022年の3.5%から急増した。
一方、カナダの経済が生み出す雇用は減少し、失業率は6%で高止まりしている。一時的滞在者における失業率は14%と更に高い。
そうした中、カナダの都市の多くが住宅危機に直面し、保健・医療体制でニーズをさばききれなくなっている地域も少なくない。一時的滞在者が多いことがこうした問題の原因となっているとの批判が出て、移民に対するカナダ国民の見方も厳しいものとなってきている。
そうした批判に対応するため、カナダのマーク・ミラー移民大臣は、今年に入って、学生ビザの発行上限の引き下げ、企業が外国からの一時的な労働者を雇用できる数に上限を定める等の移民制限措置をとっている。こうした措置の一環として留学生に対する就労許可が更新されないこともある。
カナダでは、5人に1人が外国生まれで、長年、移民の受け入れに寛容であった。保守党も労働党も、労働者の数を確保し、人口を増加させるために移民の受け入れを推進してきた。
一方、状況は変わりつつある。多くのカナダ人は、余りに短期間に、余りに多くの移民を受け入れすぎたと感じている。移民の側は、こうした動きに対し、不公正な形で標的にされていると感じている。
欧米と異なり、カナダの移民の大多数は合法的にカナダに来た者であり、近年の国民感情の変化はあるものの、政治における議論も概ね落ち着いている。ただし、インドからの学生を含む一時的滞在者が非常に多く集まっている地域では緊張が見られる。
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欧州各国で移民・難民問題が深刻化しているが、上記記事は、移民に対して寛容な政策をとってきたカナダも移民制限の方向に方針転換していることを指摘する。
カナダは、世界の先進国の中で、移民受け入れに最も積極的な国である。移民問題が深刻化している欧州諸国では外国人人口が10%前後の国が多いが、カナダでは人口の23%が移民となっている(2021年国勢調査)。
人口学者のポール・モーランドは『人口は未来を語る』において、少子化の中、外国人を多く受け入れることで経済力を確保するが、民族の連続性を犠牲にする国を「英国型」と呼んでいるが、英国にもましてその特徴を強く示しているのがカナダと豪州であろう。
上記記事は、カナダが移民受け入れに積極的であったものの、近年、方針転換している経緯について説明しているが、どのような要因がその「受け入れ姿勢」を規定するかを考える際に示唆的である。