米国共和党のトランプ大統領候補が、突如、ペンシルベニア州のマクドナルドで「アルバイト」をしたことが話題になっている。競争相手である民主党のハリス候補が若い時に「マクドナルドでアルバイトをしていた」と発言していたことに対抗する狙いがあるとみられている。ハリスがバイトしていたのをトランプが「フェイク」と主張したのも、自らわざわざ「アルバイト」したのも、自分こそが「庶民派」であることをアピールするためと報じられている。
しかし、エプロンをつけてポテトを揚げる姿を見せたところで、トランプが庶民でないのは周知の通りである。彼が成功した不動産業者の御曹司であることは有名だ。一方で、ハリスも両親は共に学者であり、金銭的にはともかく、米国人が考える庶民のイメージにはぴったりとは当てはまらない。
では二人の副大統領候補はどうであろうか。トランプの副大統領候補であるJ・D・ヴァンスは、自分が育った貧しい白人労働者階層の現状を描いた自伝『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』で有名になった人物である。ヒルビリーとは、米国の山がちな田舎で単純な生活を営み、学もなく時に都市居住者から愚かだと馬鹿にされる存在のことである。
ヴァンスは過去に栄えたものの今は荒んだラストベルトと呼ばれる地帯に位置するオハイオ州の町で育っている。そこは以前は鉄鋼で栄えたが、いまは仕事が少なく希望もないと彼は語る。
まだヨチヨチ歩きのころに両親は離婚しており、彼を引き取った母親は高校時代に妊娠して苦労して以来、薬物乱用に苦しんだ。結局、ヴァンスと姉は母方の祖父母に育てられた。祖父母はどちらも高校も卒業していないし、一族を見渡しても大卒はほとんどいなかった。
そんな環境にあって彼は海兵隊に入隊することで家を出て、その後、退役軍人に学費を給付する制度を利用してオハイオ州立大学に入学、更にイェール大学ロースクールを出て、ペイパルの共同創業者で大金持ちのピーター・ティールのベンチャーキャピタル会社の社長を務め、オハイオ州選出の連邦上院議員となるなど大成功を収めている。
ヒルビリーと自称するヴァンスを、バイデン政権で運輸長官をつとめるピート・ブティジェッジは、ケーブルテレビ局HBOの人気トーク番組リアルタイム・ウィズ・ビル・マーで鋭く批評した。ブティジェッジはヴァンスのことを指して、大金持ちによいことをしてくれそうな共和党を支持することに決めた大金持ちに過ぎないと喝破したのである。ブティジェッジはまたヴァンスが5年前は、トランプを厳しく批判する反トランプだったのに、手のひらを返したようにトランプをほめそやすように態度を変えたことについて、上に行くためには何でもするあのような人間はよく知っていると人格まで問題視した。
一方、ハリスの副大統領候補であるティム・ウォルズは、その家庭環境や、田舎町の高校を卒業してすぐ州兵となったこと、また、公立高校の社会科の教員として勤め、また勤務する高校のアメリカンフットボールのコーチをした経歴など、米国人が考える庶民像にぴったりである。4人の候補を比べるとウォルズだけが典型的な庶民派といえるだろう。
それではウォルズを擁するハリス側が庶民にアピールするかというとそうも言えない。必ずしも米国では「庶民」が庶民に受け入れられるとは限らないのである。
もともとプロテスタンティズムが主流を占めてきたのが米国である。プロテスタントは現世でまじめに働くことを重視する。勤勉に働くことは徳を積むことであり、そのため一生懸命働いてお金を儲けるのは恥ずかしいことではなく、むしろよいこととされる。