この社説は、トランプは関税を万能策と考えているが、それは次の理由で、「米国民、米国経済、そして世界にとって」毒薬になると主張している。
第一は、関税は消費者に転嫁され、PIIEによると平均的な家計には年間2600ドルのコスト増になる。第二に、コスト増は雇用に悪影響を与え、相手国から報復を受けて(その可能性は一層強くなっている)米国の輸出の減少を招く。第三に、関税収入により所得税が不要になることをトランプは目論んでいるようだが(減税の財源にも当てたい)、それは「1930年以前の世界のことで、貿易が確立されておらず、国家がより小さかった数世紀前の重商主義的な世界経済に相応しいものだった」、トランプの政策の結果は赤字とインフレの引き上げになる。
上記の社説が言っていることは正論だ。関税主義は、特に包括的な関税は時代錯誤で、世界化の進んだ今日の経済原理に反する。さらに、戦後の世界経済の発展とレジームの発展を無視する夢想の議論である。
また、それは世界貿易機関(WTO)の世界に代表される戦後の国際ルールと協調主義をないがしろにする。アナーキーの世界への復帰になる。
トランプは、戦後の歴史的発展を理解していない。交渉とルールやグローバルガバナンスによって問題を解決していくことが全ての者の利益になる。
もちろん、ルールに整合する形で、緊急関税は必要な時には掛ければよい。ハリスは、トランプの包括的関税構想を批判し、そのような関税は特定の焦点を定めた目的のために発動されるべきだと述べている。
トランプは所得税のない、関税が主要税収源となる米国や世界を構想しているのかもしれない。しかし、それは不可能だ。利益にもならない。
政治指導者の世界観、歴史観が重要な所以である。トランプの人生は、そういう生き方の人生だったのだろう。すなわち、一個人が、自由に、あらゆる手を使って競争に勝ち、富を集積する、という生き方だ。
ハリスの貿易政策は、もう少し正統だ。ハリスは「トランプ関税は、トランプの売上税となり、米国の消費者に打撃を与える」と主張している。正論であり正統派の議論だ。
ハリスの議論は、多分にPIIEの研究に影響を受けている。また、ハリスは、経済は一部だけからではなく、全体として考えるべきだとの考えを述べ、成長を重視、そのための投資を重視している。
9月25日のカーネギー・メロンでの経済演説では、自分は「資本主義者だ。自由で公正な市場を信じている」と述べた。民主党左派等からの反対があるかもしれないが、バイデン政権の政策をもう少し市場重視の経済政策に移すことが望ましい。
また、経験を有する経済学者、専門家の意見を良く聴くべきだ。そして、関税、国際経済政策を見直すべきだ。不必要で過度な政府の経済介入は、結局良いことにはならないだろう。大統領選に勝利した場合は、国務、国防の他、財務や商務、USTRには有力な人物を据え、抜本的な政策レビューをすべきだろう。