フィナンシャル・タイムズ紙9月28日付け社説‘Trump’s miracle cure for America’が、トランプの提案する関税は支持を取り付けたい有権者層にとり毒薬になる、と述べている。主要点は次の通り。
政府が複数の政策目標を達成するためには、複数の政策手段が必要だ(ティンバーゲンの法則)。経済の成長、公的サービスの提供、債務返済には多くの政策ツールが必要となる。しかし、トランプは一つの政策手段、すなわち関税で米国の困難な課題に対処できると主張する。
輸入関税は、トランプの「万能薬」だ。彼は、関税により中国を抑え、製造業の雇用ブームを促し、減税の資金を賄い、食品価格を下げ、ドル離れを防ぐことができると信じている。9月初めにトランプは、育児費用の上昇も関税で解決できるとさえ示唆した。
「Maganomics」(注:MAGAとeconomicsを合わせた造語)と名付けられたトランプの政策課題に対処する関税提案は、拡大している。ほとんどのアナリストは、全輸入品に対して10%から20%の関税を課すという計画、特に中国からの輸入に対しては60%の関税を課すという案については本気だと見ている。これにより、米国の輸入関税は1930年代以来の水準に上がることになる。
トランプは、関税が米国の生産者を支え、雇用を創出し、コストを削減し、さらに減税の財源にもなると考えている。それは希望的観測だ。
関税という保護障壁は、外国からの競争によって生計が脅かされると恐れるブルーカラー労働者にとっては魅力的かもしれない。しかし、実際にはトランプの提案は、彼が支持を得ようとしている有権者層に害を及ぼす可能性が高い。
第一に、関税は米国の輸入業者が支払う。そのコストはしばしば価格上昇という形で、消費者に転嫁される。
ピーターソン国際経済研究所(PIIE)は、トランプの計画が平均的な家庭に年間2600ドル(約39万円)のコスト増をもたらす可能性があると推定している。最貧層はさらに苦しむだろう。
コストを吸収しようとすると、雇用に圧力がかかるリスクがある。全米経済研究所(NBER)の研究論文によると、2018年から19年のトランプの貿易戦争は保護されたセクターにおいて雇用にほとんど影響を与えなかったが、報復関税は明白に否定的な影響を及ぼした。今回トランプの関税提案と米国の輸出に対する反発(報復)の可能性はさらに強くなっている。
所得税や法人税の減税を賄うためには、PIIEの別の推定によれば、全輸入品に対して50%の関税を課しても、推定される5.8兆ドルのコストを賄うには不足する。実際には、高関税は輸入業者に代替供給元への転換を促し、輸出業者は他の市場へ転換しようとする。しかし、トランプは「オール関税政策」によって所得税の必要性を排除するという考えを好んでいる。
このような考えは、貿易が確立されておらず、国家がより小さかった数世紀前の重商主義的な世界経済には相応しかった。しかし、トランプの政策は、赤字とインフレを引き上げることになるだろう。安い食料品は手に入らなくなる。
実際には、トランプがどれだけ公約を実行するかに掛かっているが、トランプは米国に関税の壁を築くことを自分の選挙運動の中心に据えている。多くの有権者がそれを信じている。問題は、彼の(関税)万能薬の政策が米国民、米国経済、そして世界にとって毒薬になるということだ。
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