石破茂内閣は地方創生の交付金を倍増し、「新しい地方経済・生活環境創生本部」を立ち上げた。しかし現在の地方創生推進交付金1000億円(事業費ベースで2000億円)の使途を見ると、結婚・出産・育児など社会環境の整備、移住促進、観光・農林水産業の振興その他となっていて、これらを倍増しても地方創生が実現するとは考えられない。
東京都発表の統計によると、近年の都への転入超過数の最も多い年齢階級は20~24歳である。そして国土交通省の調査(2020年)によると、若者が東京を中心とする大都市圏に出てくる理由の第一は仕事、第二は進学である。
大学や専門学校に入るときに東京に出てきても住民登録は移さず地方に置いたまま、という人も就職時に東京に住民登録するので統計上は20歳~24歳が転入する結果となる。仕事と進学の両面で地方を充実しない限り、地方創生は実現しない。
感情的で単純な東京一極集中批判論では問題解決の役に立たない。9月に発表された基準地価を見ると、三大都市圏(東京圏・大阪圏・名古屋圏)商業地の今年7月時点における前年同月比地価上昇率が6.2%であるのに対し、いわゆる札仙広福(札幌・仙台・広島・福岡)4市商業地の地価上昇率はそれを上回る8.7%だった。
前回調査でも三大都市圏の6.2%に対してこの4市の上昇率は9.0%だった。実際、これらの4市の中心部では盛んに再開発が進行中である。
いわゆる札仙広福が元気であることでもわかるように、日本の国土で発生している現象は、正確には「東京一極集中」ではなく、各地における「大都市化の進行」である。
「東京がブラックホールのように人口を吸収している」という表現もまちがいである。昨年1年間に東京都に「隣接3県(埼玉・千葉・神奈川)以外の道府県」から流入した人口は11万4802人だが、そのうち「隣接3県」から流入した人口が5万6313人と半数を占めている。東京が全国から人口を吸収しているというわけではないのだ。
また、「隣接3県」からの人口流入も必ずしも悪いことではない。東京都と隣接3県そして茨城県は数十年にわたって交通ネットワークの整備に努めて来て、有機的な連携を強め役割分担を進めてきた。地方創生を実現するには、総花的政策ではなく、地方でもそれぞれの大都市と地方の連携を強めるなど広域的なインフラ整備を進め機能連携を進めるべきである。そいう考え方の元に、東京にある機能のうち、地方に移転させるべき機能を積極的に移転させる必要がある。
国が1987年に策定した第四次全国総合開発計画を受けて、88年に多極分散型国土形成促進法が制定された。国の首都圏基本計画は、東京都区部以外の中核的都市を重点的に整備し、首都圏全体をバランスの取れた大都市圏とすることとした。
そして「町田・相模原」「横浜」「川崎」「厚木」「熊谷・深谷」「埼玉中枢都市圏」「川越」「春日部・越谷」「土浦・つくば・牛久」「成田・千葉ニュータウン」「千葉」「木更津」などを、従来東京が担っていた諸機能の受け皿となる「業務核都市」に指定。今日、東京大都市圏とされている地域の中で中心的な役割を果たすことができるように育成させた。
この時期、国が定めた業務核都市構想に対して東京都は積極的に対応し、国および隣接各県等と連携して、国の行政機関等(地方支分部局)の移転再配置などを図り東京圏の地域構造を従来の区部中心部への一極依存構造から、複数の核と自立した都市圏からなる多核多圏域型へと再編する「展都」を進めた。都が95年に策定した「とうきょうプラン95」や97年に策定した「生活都市東京構想97」は、「展都」には広域的交通ネットワークの整備が中心であるとして、圏央道・つくばエクスプレス(TX)・京浜急行電鉄の連続立体化・上野東京ラインなどの整備を積極的に推進した。