第2は、バイデンの産業政策は本当に成功しているのかどうかである。最近の製造業の建設投資の急増だけから見ると成功しているように見えるが、ザカリアが言っているように、「CHIPSプラス法」に基づいて供与されている補助金をみるとそうとはいえない。というのは、このところ経営的に苦境にあり、株価も低迷しているインテルに3月には85億ドル(商務省)、そして先日は30億ドル(国防省)の補助金が投入されることになっているからである。
最近、半導体大手クワルコムがインテルに買収を打診したとの報道もある。バイデン政権の補助金を梃にした産業政策は正しかったのか。“勝者の選定”問題を含めて、議論が起こって当然である。
第3にはトランプはハリスよりもマクロ経済の運営が上手であると国民はなぜ思っているのかという点である。ザカリアによると、それは国民の思い込みであるという。ザカリアの見方が正しいと思われる。
トランプが豪語する製造業の復活は成功していない。Bloomberg New/Morning Stateがスウィングステート州の有権者を対象にした最近のアンケート調査によると、「経済運営ではどちらの候補が優れているか」という問いに対して、トランプはハリスをリードしているが、その差は8月の6ポイントから今回は4ポイントに縮小している。
また、「中流階級を助けるためにはどちらの候補がより信頼できるか」についてはハリスが11ポイントリードしている。このことからもわかるように、トランプの方が経済運営に高い評価を与えることには疑問が出てきても不思議ではない。
なお、トランプの政策に関してザカリアが引用しているPIIEの研究によれば、不法労働者の海外追放、追加関税、Fedの独立性の喪失を合算した場合の総合的な効果を見ると、28年の国内総生産(GDP)は基準ケースに比して、2.8%(不法労働者の国外追放が130万人)~9.7%(不法労働者の国外追放が830万人)であり、26年のインフレ率は基準ケースに比べてそれぞれ4.1%~7.4%高くなっている。
このような試算結果からわかることは、米国の関税を負担するのは外国であり、移民は米国生まれの労働者の仕事を奪い、高い成長のためには持続的な低金利が必須との信念に基づいて3つの「ビッグアイデア」(高関税、不法労働者の海外追放、Fedの独立性の剥奪)を実施することは間違った経済政策ということである。