ワシントン・ポスト紙コラムニストのザカリアが9月27日付の論説‘Trump’s big ideas would stunt U.S. growth and spur inflation’で、トランプの政策が実施された場合の米国経済に与える効果はトランプの主張とは真逆であって、米国国民に損害を与えるとの研究を紹介している。要旨は次の通り。
トランプ氏が政界入りして以降、国民の多くは彼が経済成長をもたらす方法を熟知している人物と見ているが、実際は、トランプが提案するほとんどすべての政策は、逆の結果をもたらすであろう。
彼の具体的な提案は、包括的な輸入関税と不法労働者の国外追放だ。経済学者は一致して、どちらも成長に悪影響を及ぼしインフレを上昇させると見ている。その論理は明白だ。消費者向けの商品の価格が上昇し、労働者の数も減るために、働く人も物を買う人も減るということだ。
ピーターソン研究所(PIIE)の計算によると、トランプの政策によって2028年までに米国経済はそうでない場合よりも2.8~9.7%縮小し、26年までにインフレ率はそうでない場合よりも4.1~7.4%p高くなる。また、アメリカ進歩センターによると、平均的な米国家庭は商品やサービスに毎年2500ドル多く支払うことになり、関税はすべての国民(富裕層も貧困者も)にとって同じ額の税が課されることになるので、非常に逆進的になる。
また、移民労働者は起業する可能性が高いことを考えると、不法労働者を国外追放することによる経済へのイノベーションの損失コストは取り戻すことはできない。従ってトランプ政策の効果は規制緩和を信じることである。
このようなトランプの提案が米国経済にもたらすダメージは、法人税の引き上げなど、民主党が提案する「反企業」的提案よりははるかに大きい。実際、ハリスの提案のほとんどは、同党のサンダース氏のものよりも中道左派に近い。
しかし、バイデン・ハリス政権は、勝者と敗者を選別する政府介入という新しい流れに加わったが、その成功はまちまちだ。トランプの対中国関税に当初は反対していたバイデンは、それをおおむね維持した。
バイデン政権は中国が西側諸国の最先端技術の一部(半導体などの軍民両用技術を含む)を入手するのを阻止してきた。しかし、米国でのチップ製造業の復活を図るため、ホワイトハウスはインテルに数十億ドルの資金提供を約束した。一方、インテルはその顧客と資金が流出しているために株価は急落しており、今や買収の標的になりつつある。
トランプとハリスはどちらも、深刻な住宅不足に対処するプランを立てている。トランプのプランは非常に心配だ。というのは住宅ローン金利の引き下げを目指して、Fedに金利引き下げを迫るかもしれないからである。
ハリスは、供給と需要を増やすための補助金と家賃統制の拡大を提案している。両候補とも間違っている。アルゼンチンのミレイ大統領は、世界で最も厳しかった家賃統制法を最近廃止した。その結果、賃貸住宅の供給は170%増加し、賃貸価格は40%低下した。
政府介入が流行している時代には、市場こそが最終的に持続的な成長と効率を生み出すものであることを忘れてはならない。
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上記のザカリア論稿は思いを巡らすことが多い内容である。ここでは3点ほど述べておこう。
第?は、直面する経済問題は政府の介入あるいは規制によって解決できるという発想を政治家は簡単に持ちたがることである。例えば、ハリスによる高い食品価格や高い家賃への価格統制論であり、トランプは輸入規制によって食品価格は低下すると珍奇な説を述べている。この点に関しては、ザカリアが言っている「政府介入が流行している時代には、市場こそが最終的に持続的な成長と効率を生み出すものである」との指摘は全くの正論だろう。