23年12月21日 ホワイトハウスは、国家経済会議(NEC)のラエル・ブレイナード委員長の声明を発表し、「USSは国家安全保障に重要な米国鉄鋼生産の中核企業であり、親密な同盟国の企業による買収でも対米外国投資委員会(CFIUS)の審査対象になりえると大統領は考えている」と慎重に審査を行う意向を示した。
24年2月2日 買収案の発表直後から反対の姿勢を示しているUSWが次の声明を発表した。「鉄は国家の安全保障、重要インフラに欠かせない。USWの組合員は世界最高水準の製品の製造に誇りを持っている。不幸にも日本製鉄とUSSの契約は国家と組合員を困惑させている。本日バイデン大統領から支援するとの確約を得た。バイデン大統領は常に労働者と組合の友人である」
24年2月26日 USWが日本製鉄との間で守秘契約を締結したと発表。USWの反対により政治問題化しているが、これによりUSWが買収に関し態度を軟化させるとの観測もでた。結果として大きな進展はなかった。
24年3月14日 バイデン大統領が以下の声明を発表。「米国鉄鋼労働者が力を与えている米国の強い鉄鋼企業を維持することは極めて重要である。鉄鋼労働者に私が後ろにいると伝えた。USSは1世紀以上の間、米国の象徴的な鉄鋼会社だ。国内で保有され操業が維持され続けることが必須だ」
24年4月12日 USSの特別株主総会が開催され、98%を超える株主が投票。うち71%が買収提案に賛成した。
24年9月4日 日本製鉄は、「買収がもたらす利益を確実なものとし、USSが米国産業界において米国の象徴的な企業であり続けるために策定した」とするUSS買収後のガバナンス方針を発表。それまでに発表していた投資計画に加え、USS経営陣の中枢メンバー、取締役会の過半数を米国籍とするなど新方針を追加した。
24年9月17日 米国メディアは、日本製鉄が要請したCFIUSによる審査の再申請が認められたと報じた。再申請により、米政権の判断は11月の大統領選以降になる公算が大きくなったとされる。
日本製鉄のUSS買収の狙いの一つは、米国鉄鋼市場にあると考えられる。人口減少に見舞われる日本と異なり、米国の人口は増加を続けている。
20年の人口は、米国、日本それぞれ3億3300万人と1億2600万人だ。40年にはそれぞれ3億7400万人、1億1280万人になり、60年には4億500万人と9610万人と予測されている。20年から40年間に日本の人口は24%減少する。米国は22%増加する。
人口が減少する社会では、必要とされるインフラも縮小し、鉄鋼需要も減少する。日本の市場規模縮小に対し、米国市場は拡大する。拡大する市場は魅力だ。
図‐1が最終製品になる前の粗鋼の国別生産量を示している。旺盛な需要を背景に中国が世界の半分以上の生産を行っている。
国別の輸出入は図-2の通りだ。米国は世界最大の鉄鋼輸入国だ。鉄鋼貿易は政治問題化することがあり、関税、数量割り当ても時として実施される。日本からの輸出が問題になる可能性がある以上、米国内の生産が好ましい。
企業別の生産量では、世界一は中国宝鋼集団だ。23年の生産量は1億3100万トン。2位はアルセロール・ミッタルの6850万トン。日本製鉄は4位4370万トン、USSは24位1580万トン。買収が成功すれば世界3位の規模になる。
買収によるシナジー(相乗効果)も同業の間では大きい。技術、設備投資、資金調達など多くのシナジーが期待できるが、米国企業を買収するメリットは、市場とシナジーだけではない。