フィナンシャル・タイムズ紙は、米大統領選挙が2カ月以内に迫る中でイスラエル、イラン等の当事者達は、米大統領選挙へのそれぞれの思惑から時間稼ぎに終始しているが、中東情勢は危険な状況となっているというキム・ガッタス(コロンビア大学特別研究員)の論説‘The Middle East plays roulette as everyone gambles for time’を掲載している。要旨は次の通り。
米大統領選挙まで2カ月以内となり、11カ月続いているガザの衝突は米大統領選挙に影響されている。つまり、休戦と人質の解放は難しくなっている。
8月、バイデン政権は、イスラエルがベイルートとテヘランを攻撃したのに対してイランとヒズボラが報復を誓った後、賢明にも(ガザの衝突についての)協議再開を提起したので、紛争拡大に巻き込まれることを望まないイラン側も、協議を妨害したくないとうそぶいて、協議再開を口実に当面の間、報復を止めた。
イランは、トランプ前大統領が大統領選挙に勝つことを助けたくはないが、イランの報復は依然として有り得る。8月のヒズボラの報復以降、イスラエル・レバノン国境での衝突は低下している。
ヒズボラは明らかに現実的であり、(報復も)抑制的だ。しかし、抑止力を回復出来ていない。
つまり、中東は如何なる事態が起きるか分からない危険な状況にある。イスラエルが空爆や暗殺でイラン側のレッド・ラインを犯してもイラン側は抑制的な報復しているので、イスラエル側は、より大胆になり、いつかは、やり過ぎてしまうだろう。
バイデン政権は、その任期が満了する前に中東外交の成功としてガザの停戦を実現しようと努力を集中している。バイデンは大統領再選から降り、色々な政治的な配慮をしなくても良くなったが、大統領選挙で僅かにリードしているハリス候補に悪影響があることを恐れて依然としてネタニヤフ首相に本気で圧力を掛けることをためらっている。
しかし、イスラエルが暗殺を行ったり、ヒズボラのミサイルでイスラエル側に多数の死傷者が生じたりして大規模な地域紛争が突如始まったら、彼女の選挙戦にとって決して良くないであろう。
他方、トランプ前大統領は、中東の混乱した状況を引き継ぎたく無いので、イスラエルに対して戦争をさっさと片付ける様求めている。その一方でトランプ前大統領とイスラエル首相府は否定しているが、トランプ前大統領は、ネタニヤフ首相に対して大統領選挙で民主党を有利にするので休戦協定に合意しないよう求めたとも伝えられている。
ハマス側は規模が縮小し、弱体化しているが、イランとヒズボラがこの衝突に完全に介入して中東地域全体を紛争に巻き込むことを期待して引き続き抵抗し、妥協しようとしていない。
ガザの衝突の関係当事者全員が、時間稼ぎをしている。しかし、現実には、彼らは結果をコントロール出来ると信じて危険な賭をしているのに過ぎない。2カ月間という期間は米大統領選挙では問題ではないが、ガザや南部レバノンの一般市民やイスラエル人の人質にとっては生死を分ける問題なのだ。
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トランプ前大統領が、ネタニヤフ首相に大統領選挙で民主党を有利にしないよう休戦協定に合意しないよう求めたという話は、過去にイランの米国大使館人質事件(1979年~1981年)が続く中での米大統領選挙(1980年)でカーター大統領を破ったレーガン候補が人質を解放しないようにイラン側に密かに要求したという陰謀論を彷彿とさせるが、やはり、トランプ前大統領の本音は、自分が大統領になる前に面倒な事は片付けて欲しいのだろう。