<イスラエルに休戦協定を結んで欲しくないトランプ>米大統領選挙に向けて時間稼ぎ?中東当事者たちの思惑とは

2024.10.01 Wedge ONLINE

 しかし、ネタニヤフ首相の方が鋭く対立しているバイデン大統領の中東政策を継承しそうなハリス候補を勝たせたくないので大統領選挙前には休戦や人質問題を解決させないようにしているという見方は有り得る。

 この論説が指摘するように米大統領選挙が近づくにつれて当事者達がそれぞれの思惑から、少なくとも米大統領選挙が決着するまで様子見をしているという指摘は、その間もガザや南部レバノンで人道的危機が続いているのだが、残念ながら概ね正しいように思われる。イランもヒズボラも、大統領選挙前にイスラエルに対し大規模な報復をして反イランのトランプ大統領を勝たせたくないと思っていて報復を思い止まっているのであろう。

 イランがロシアに短距離弾道弾を供与したと報じられているが、これはイラン的なフラストレーションの意思表示かもしれない。しかし、この論説が指摘している通り、イスラエルとイラン・ヒズボラの間の抑止力のバランスは回復しておらず、何処かのタイミングでイランとヒズボラは報復により対イスラエル抑止力を回復させようとするだろう。

危険な賭けに出るネタニヤフ

 バイデン大統領は、自分の功績としてガザの紛争を解決したいであろうが、同時にハリス副大統領の大統領選挙での勝利の可能性を損ないたくないのでネタニヤフ首相に本気で圧力を掛けられないという指摘は恐らく正しい。他方、ハマスには余り選択肢は無い。

 武闘派のシンワル氏がハマスの指導者となったために、ハマスは徹底抗戦を続けるだろう。ハマスは、イランとヒズボラが本気でイスラエルに報復して紛争が拡大すれば、ハマスに対するイスラエルの圧力が低減すると期待していると思われる。

 そして、ネタニヤフ首相は、ガザの休戦についてはハリス候補を抱えたバイデン政権が本気で自分に圧力を掛けることは出来ないだろうと読んで、のらりくらりと対応しており、他方、少なくとも米大統領選挙前にイランとヒズボラが動かないであろうと見切って、最近もシリア領内のヒズボラの拠点を空爆ではなく特殊部隊で攻撃した。明らかに危険な賭けに出ている。中東情勢はますます不安定化の度合を増しており、一触即発の状況にあると言わざるを得ない。