ワシントンポスト紙の欧州担当コラムニストのホックスターダーが、9月9日付の論説‘Macron’s Faustian bargain could be a dire turning point for France’で、マクロンがルペンの協力を得てバルニエ新首相を任命したことにより、極右勢力に政府の政策や国家の未来を委ねることになったと批判している。要旨は次の通り。
自らが作り出した窮地に追い込まれたマクロン大統領は、マリーヌ・ルペンの国民連合の支持に依存する新首相を任命した。ルペンが支持撤回を決めればいつでもバルニエ首相を不信任し政府は即座に崩壊するだろう(左派政党の多くが既に不信任を表明している)。
マクロンは長い間、極右の台頭を阻止することが自らの重要で最も緊急な使命だと信じてきたので、これは劇的な展開だ。彼は国民連合に完全に権力を委譲してはいないが、新しい取り決めは権力分担に傾いている。
そして、フランスの極右の新たな影響力は、数年来、反移民、人種的民族主義、ユーロ懐疑論へ傾きつつあった欧州における流れを加速させる可能性がある。
左派と右派の穏健派にも責任がある。もし彼らが2カ月前の選挙の後に妥協する気があったなら、マクロンの新政権を支える幅広い中道派の連立政権に参加できたはずだ。
それが大統領の望むところであったであろうが、それぞれが拒否した。議会が小党分立化したことで、マクロンは、最も過激な会派の一方の陣営だけが支持する首相を選ぶことを余儀なくされた。
メディアによれば、マクロンは、ルペンに新政権の不信任投票をすぐには行わない保証を求めたという。しかし、国民連合は、政府を、移民への厳しい対応を含むその強硬な綱領の人質とすることを伝えた。
マクロンは、欧州議会選挙で国民連合が躍進した後、6月に議会を解散し新たな選挙に訴えることで、このドラマを始動させた。それは、「明確な多数派」を追求するためのやらなくても良いマクロンの賭けであった。
これは裏目に出て、議会は、左派、右派、中道派に分裂し、ルペンの国民連合が最大多数党となった。その結果、夏中続いた政治的麻痺によりフランスは暫定政権で運営された。
この混乱から唯一、受益者となりそうなのは、2027年の3度目の大統領選に向けて準備を進めているルペンだ。マクロンの新政権の選出におけるキングメーカーの役割を与えられ、今やその存続の保証人として、彼女は切望する資格、つまり尊敬の念を手に入れた。彼女は、反ユダヤ主義者を追放し、生活費などの日常的な問題を受け入れることで、党の毒気を抜こうとしてきた。
彼女の目標は、国民連合を権力の座から遠ざけるために主流政党が築いたファイアウォールを打ち壊すことだった。今や、マクロンは、政治的基盤を入れ替えようという衝動的な決定によって、ファイアウォールの亀裂だけでなく、大きな突破口を許してしまった。
ルペンがその影響力をどのように展開するか、すなわち彼女の党の右派ポピュリストのアジェンダを強く主張するか、または中道派に歩み寄るかは、今後数カ月で明らかになるだろう。驚くべきことは、何年にもわたって周辺に追いやられていた極右が、今や政府の政策と国家の未来について決定的な支配力を持ったことだ。
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この論説は、マクロンが極右の国民連合の支援に依存してバルニエ首相を任命したことを、ルペンに首相人事や政府の政策についての拒否権を持たせ、将来の政権獲得への道を開いたものだとして強く批判するトーンである。しかし、議会解散という賭けが裏目に出たことは今更嘆いても意味がなく、またマクロンが国民連合の協力を得た原因は、左派新人民戦線が選挙結果を自らの勝利と位置付けた硬直的な対応にあり、それ以外の選択が無くなったためだ。その結果、国民連合との連携以外に道がなくなり、ルペンのキングメーカーとしての地位が確立したと言える。