【消去法で首相を選んだマクロン】連立政権ができないフランス政治事情、極右がキングメーカーに

2024.09.27 Wedge ONLINE

 選挙の結果、国民議会で、過半数を有する会派はなく、現状は総数577のうち、最大会派の新人民戦線(左派4党連合)は、193議席に過ぎず、二番手がマクロンの与党の中道連合の166議席、三番手が極右の国民連合に共和党の右派が加わった142議席であり、いずれも過半数の289には程遠く、三すくみの状態である。本来、3つの勢力のうちいずれか2つが連合すれば連立政権が成立するはずであるが、フランス第5共和制では交渉による連立政権形成の経験や伝統がなく、妥協を拒む姿勢が事態の混迷を招いた背景にある。

 憲法上首相の任命権は大統領にあり、マクロン自ら各党と受け入れ可能な候補者についての協議を行い、社会党系労働組合の委員長や諮問機関の「経済環境社会評議会」議長等の非政治家や、オランド社会党政権で首相を務めたカズヌーブ、共和党政権で閣僚を務めたベルトラン地方圏議長等を有力候補として検討された。しかし、いずれも不信任決議を回避できる目途が立たず、結局国民連合が受け入れ可能としたバルニエ元外相の任命に至った。

 同氏は、共和党政権で外相等閣僚を歴任したベテラン政治家で欧州連合(EU)委員も務め、EUのBREXIT交渉も担当した経験がある。前回の大統領選に向けての共和党予備選挙で移民の流入制限を提案し、EU法の国内法に対する優位に疑問を提起した保守的な体質も有している。

 国民連合は、内閣には参加せず、移民や犯罪対策、購買力の強化等、国民連合を支持した有権者の重視する問題への対応に留意し、今後の施政方針演説や組閣内容を見極めたうえで態度を決める、と述べている。ルペンは、妨害することが目的ではないとも述べており、国政に責任を持つ政党として左派のような硬直的な対応とは一線を画そうとしているようにも見える。

国政の混乱は自明

 憲法上、10月1日までに予算案を提示する必要があり、バルニエ首相を不信任したとしても同じプロセスが繰り返されるだけで、国政の混乱は自明である。国民議会の再選挙は、1年間は行うことができないことから、国民連合は来年6月まではバルニエ首相を不信任せず、自らが要求する政策の実施に向けて圧力をかけるのではないかと予想される。再度議会選挙が可能となれば、年金問題を持ち出し、首相不信任により再びマクロンを追い詰めようとする可能性もあろう。

 反対派の主張も良く聞くとの定評のあるバルニエは、組閣に際しては左右双方の人材を登用したいと述べており、内閣の顔ぶれ、予算案、そして当面の重点施策で特に国民連合とどう折り合っていくかは、ベテラン政治家の腕の見せ所だろう。

 マクロンとしては、いずれ首相不信任となれば、再度議会を解散し現在の中道派連合に共和党を加えた拡大中道連合で再選挙に備えるつもりなのではないだろうか。

 いずれにせよ、当面緊張と予測のできない不安定な内政状況が続くことは避けられず、対外的には国際社会やEUにおけるフランスの発言力の低下やEUの結束にも影響が及ぶことが懸念される。