米国テレビ界のアカデミー賞といわれるエミー賞で、俳優の真田広之が主演とプロデューサーをつとめる『SHOGUN 将軍』が、作品賞、主演女優賞、主演男優賞など主要9部門中5部門を含む単年での受賞数としては最多記録となる18部門で受賞した。これまで米国で制作された日本を舞台にした作品は、日本文化を正確に反映していないなどと批判されてきたが、今回は、主演の真田も制作側に加わることで、日本文化に敬意を払った本格的な作品となっており、それが米国の視聴者にも受け入れられたとされる。
今回の受賞が一部驚きをもって受け止められた理由の一つに、セリフの7割が日本語で、それに英語字幕があてられていたことがある。米国は日本ほど字幕が発達していない国で、外国映画なども音声吹き替えで観るのが一般的である。
これについては制作サイドも心配していたようで真田自身もセリフの過半が日本語にするということを「リスキー」だったと述べている。それがDisney+やHulu、Netflixなど配信サービスの普及による英語圏以外で作成された作品を字幕で見る習慣の広がりと、コロナ禍の影響でそれらを観る時間が増えたことが、字幕が浸透した原因といわれる。これには、字幕の見やすい大画面のテレビが低価格で普及したこともある。
ただ、『SHOGUN』は、全米の人々に満遍なく観られ高く評価されているわけではない。高く評価しているのは、他国の文化にも理解の深い都市部の教育水準の高い層の比率が大きい。他文化を描いた本格的な作品の価値を理解できる層であり、また、それを自負している人々でもある。
18冠の受賞にわくハリウッド周辺の盛り上がりが、米国全体の状況を反映しているわけではないことに注意しなければならない。ハリウッドと一般国民の間には大きな乖離があるのである。
ヒラリー・クリントンとトランプが争った2016年の大統領を思い出してみたい。最初の女性大統領になることを目指したヒラリーを応援したセレブには、マドンナ、ブルース・スプリングスティーン、レディー・ガガ、ビヨンセ、ボン・ジョビ、マライア・キャリー、エルトン・ジョン、ジェニファー・ロペス、マット・デイモンなど影響力のある人々が綺羅星のごとく並んでいた。それに比べてトランプ支持を表明したのは、スティーブン・セガールやジャン=クロード・ヴァン・ダムなどヒラリー陣営に比べると華やかさを欠いていた。
ヒラリーがトランプに世論調査でもリードしていたこともあり、数多くのスターに応援されたヒラリーを見た人々は、圧勝を確信した。しかし、そのようなハリウッド的浮かれ騒ぎを鼻白んでみいる米国人も多かった。ラストベルトなどに住む日々の生活に追われる人々にとっては、ハリウッドは遥か遠くの世界であり、そのような人々とばかり交流するヒラリーが、自分たちのことを本気で考えてくれるのだろうかと思わざるを得なかった。
今回の選挙でも同様の構図がみられる。トランプとハリスの討論会直後にハリス支持を表明したテイラー・スイフトをはじめとして様々なセレブがハリス支持を表明している。一方で、トランプは、様々なミュージシャンの楽曲を無許可で選挙運動に使用して、訴えられている。
お笑いテレビ番組も寄ってたかってトランプを面白おかしく笑いのネタにしている。NBCのサタデーナイトライブでは、トランプのテレビコマーシャルに似せて、「メディアはトランプを悪く言っているが、本物のアメリカ人はどう言っているか」という問いかけに、素朴そうなアメリカ人たちが、トランプは「本物だ」、「仕事を増やした」、「国を再び偉大にした」などと笑顔で答える。ところがよく見るとそのアメリカ人たちは、腕にナチの腕章をしていたり、アイロンがけをしていたのが白人至上主義の団体の頭巾だったりするというオチで、笑いと拍手が起きる。