今年4月末にイタリアで開催された先進7カ国(G7)エネルギー・環境相会合では、「対策が取られていない石炭火力発電所を30年代前半、あるいは気温上昇を1.5度に抑制可能な期間内に廃止する」とした脱石炭火力が共同宣言に謳われた。
その結果、電力供給の3割以上を石炭火力発電に依存している日本は、厳しい状況に追い込まれたと報じられた。
今世界の石炭火力発電の大半を占めるのは、中国、インドを中心としたアジアの国だ。米国とドイツを除くG7国では国内炭生産はほぼ終った。国内炭を利用する石炭火力発電所の老朽化も進み、設備の閉鎖が進んだ。
日本は、オイルショック以降の80年代から価格競争力のある豪州からの輸入炭を主に利用する火力発電所を北海道から沖縄までの沿岸に建設し、電気料金の低廉化と安定供給に努めた。
他のG7国では、米加は北米産の天然ガス、欧州諸国はロシア産天然ガスに依存した。シェール革命の恩恵に与った米国は火力発電所の燃料を石炭からより競争力がある天然ガスに転換した。15年前に米国の発電量の約半分を担っていた石炭火力の比率は今16%になった。米国の石炭生産量も半減した。
欧州諸国では内陸部の炭鉱に隣接する発電所で輸入炭を利用しても経済性はなかったので、天然ガスの利用が増えた。
ドイツだけは、国内に豊富にある褐炭(品質の劣る石炭)の利用があり依然発電量の4分の1以上を石炭火力に依存しているが、38年の廃止を法で定めている。さらに30年への前倒しをドイツの連立政権は目指している。
海洋に恵まれ沿岸部に石炭火力を新設できた日本はG7の中では例外だった。では、G7の中で日本と並び依然石炭火力を利用しているドイツと米国は、G7の目標に沿い早期に廃止できるのだろうか。
ドイツでは右派だけでなく左派ポピュリスト政党も脱石炭に反対しているが、最近の旧東独地域の州議会選挙で共に支持を伸ばした。
米国では生成人工知能(AI)による電力需要増を反映し、石炭火力の閉鎖が急速にスピードダウンしている。
石炭火力は、世界の発電量の36%を担う最大の電源だ。世界一の電力消費国中国と3位のインドは石炭火力にそれぞれ発電量の61%、75%を依存している。両国だけで世界の石炭火力の発電量の3分の2を占める(図-1)。
G7国の中で、輸入炭を利用する日本と国内炭を依然利用しているドイツ、米国の石炭火力は発電量が多い。
G7の残りの国は、国内炭鉱の閉山に合わせ炭鉱に隣接する老朽化した火力発電設備の休廃止を進めた。石炭火力の比率は数パーセント以下まで低下した(図-2)。
設備も比較的新しい日本の石炭火力の閉鎖は、電気料金上昇と供給の不安定化を招くので簡単ではないが、国内産石炭を利用する発電所を廃止する計画を持つドイツも米国も、その早期実現は危うくなってきた。
ドイツでは、旧東独地域にある地域経済を支える褐炭の炭鉱と発電所の早期閉鎖が政治的にますます困難になっている。旧西独地域との比較で経済的に苦しい市民が多い旧東独地域での右派政党の躍進を目のあたりにしている連邦政府の政権与党は、早期に石炭火力発電所を閉鎖すれば右派政党の一層の躍進につながると懸念しているように見える。
脱石炭政策が東西の分断を浮かび上がらしているドイツの現状を見てみよう。
今月の旧東独の2州の議会選挙の結果は、日本でも大きく報道された。右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が大きく躍進した。2州の選挙結果は図-3の通りだ。