AfDは、チューリンゲン州では2019年の州議会選挙の得票率23.4%を32.8%に伸ばし、第一党に躍り出た。ザクセン州では、27.5%から30.6%に伸ばした。AfDに投票した有権者は、旧東独地域は旧西独地域より不利に扱われていると感じ、さらに社会、経済が急激に変わることに不安を持っているとされている。
AfDの躍進の陰になり、日本ではあまり報道されていないが、今年1月に左派党のメンバーを主体に設立された左派ポピュリスト政党とされる新党ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟(BSW)が、両州においていきなり10%以上の得票率をあげたことも注目される。
AfDもBSWも脱・脱石炭を掲げており、右も左も旧東独地域が主生産地の石炭の継続利用を訴えている。炭鉱と石炭火力発電所は地域にとり雇用でも収入面でも重要な産業なのだ。
両州では、メルケル前首相がかつて率いていたキリスト教民主同盟(CDU)がAfDを排除する形の連立政権を模索しているが、その場合には脱・脱石炭に加え、ウクライナへの武器提供の中止を主張し、さらに米国の巡航ミサイル配備に反対するBSWとの連立が必要になる。政策が大きく異なる連立が可能だろうか。
連邦レベルの政党支持率(今選挙があるとすれば、どの政党に投票するかの率)は図-4の通りだ。
連邦レベルでは、今年初めAfDの支持率は20%を超えたが、今は少し下がっている。それでも、旧東独地域を中心とするAfDへの高い支持は、連邦政府のエネルギー政策、特に脱石炭火力政策に影響を与えると思われる。
東西ドイツ統一以降30年以上経過したが、旧東西ドイツの格差は依然続いている。
統合時に、西独の人口は東独の4倍だったが、今旧西独地域の人口は6800万人、旧東独(ベルリンを除く)地域の人口は1260万人とその差は5倍を超えている。
東部から西部への人口流出に加え、移民の流入も旧西独地域は旧東独地域の7倍になっている。その結果、ドイツ国籍を持たない住民の比率は、旧西独地区で16%、旧東独地区で7%と差がある。
東部からの人口流出のひとつの原因は所得格差とされる。23年の平均月収は、旧東独地域3769ユーロ(約60万円)、旧西独地域4586ユーロ(約73万円)と大きな差が残ったままだ。
経済格差は気候変動対策にも影響を与える。気候変動政策として資金負担に同意する比率は旧東独地区で39%、西独地区で54%だ。旧東独地区でも炭鉱を持つザクセン州では30%しかない。
脱石炭政策への賛成も旧西独地域では最高80%あるが、東部の炭鉱を持つ旧東独の3州では20%しかない。
東西ドイツ統一時15万7000人が褐炭炭鉱で働いていたが、昨年の労働者数は、旧西独地域7500人、旧東独地域9700人まで減少した。しかし、資機材などの関連産業もあり、旧東独地域にとり依然として重要な産業であることには変わりない。
旧西独地域のデュッセルドルフの南西に位置するラインラント地区で炭鉱と発電所を運営するエネルギー企業RWEは、炭鉱と発電所を30年に閉鎖すると22年に表明した。
23年元旦のインタビューで緑の党のハーベック経済・気候保護相は、「石炭火力のコストは上昇し、30年以降は経済性を失う」としてラインラント地区に続き旧東独地域の炭鉱の30年閉鎖を呼びかけた。
ザクセン州首相は、「正月早々この話を持ち出すとは理解できない。今エネルギー危機の最中だ」と不快感を示し、ザクセン=アンハルト州首相は、「30年への前倒しは災難を呼ぶ」として合意内容の変更を否定した。