次に、最高司令官の資格である。ハリス陣営は「女性初の最高司令官」が主要争点になるのを避けたいはずだ。というのは、トランプはすでに4年間、最高司令官を経験しているのに対して、ハリスは未知数だからである。
ただ、世論調査結果をみると、両氏の最高司令官としての能力に大きな差はない。エコノミストとユーガブの調査(9月1~3日実施)では、ハリスの最高司令官の能力に関して、43%が「自信がある」、46%が「ない」と回答し、「ある」が「ない」を3ポイント下回った。一方、トランプについても、45%が「自信がある」、48%が「ない」と答え、こちらも「ある」が「ない」を3ポイント下回った。
仮に、討論会で司会者から「あなたは最高司令官になる資格があると思うか」と質問されたら、ハリスは何と回答するのだろうか。
おそらく、ハリスは「私には資格がある」と答えた上で、民主党大統領候補受諾演説で指摘したように、北朝鮮の金正恩総書記とトランプの関係を持ち出すだろう。ハリスは「金正恩はトランプを応援している。トランプはお世辞に操作されやすい。トランプが独裁者に責任をとらせないのは、自分が独裁者になりたいからだ。私は独裁者とは親しくならない。私は米国の安全と理想を弱めることは決してしない(8月22日受諾演説)」と議論し、自分を民主主義の最高司令官、トランプを独裁主義の最高司令官として描き、有権者に選択肢を迫るのだ。
また、トランプがNATO(北大西洋条約機構)の同盟国に関して「プーチンは好きなようにやればよい」と言って、物議を醸した件にも追求し、トランプは最高司令官として不適格であると議論する。ハリスは、自分は最高司令官として同盟国を重視すると述べるだろう。
さらに、トランプは民間人にとって最高の栄誉となる「大統領自由勲章」と軍事行動に従事した軍人に授与される最高位の勲章「名誉勲章」を比較して、「大統領自由勲章は、名誉勲章と同等か、はるかに良い」と発言し、軍関係者を不快にさせた件も、トランプの最高司令官としての不適格を示す攻撃材料になる。トランプは2018年、自分の大口献金者のシェルドン・アデルソン氏(故人)の妻ミリアム氏に大統領自由勲章を与えた。
ハリスはこの発言を取り上げ、米国のために戦闘地域で戦った軍人を侮辱する発言だと議論し、自分は全ての退役軍事に対して敬意を払うと強調できる。
これらの他に、トランプが8月26日、約40万人の退役軍事とその家族が埋葬されているアーリントン国立墓地において、米兵の墓碑の前で遺族と写真を撮り、「選挙活動」を利用した疑惑についても言及するかもしれない。連邦法により軍人墓地の敷地内での「政治活動」は禁止されているからだ。しかも、この問題もトランプの最高司令官としての適格性に関連する。
以上のような政策論争を中心とした討論が予想されるが、有権者はその内容よりも、ハリスがトランプの議論に素早く反論ないし再反論できるかに注目するだろう。というのは、有権者には、テレビ討論会でバイデンが犯した言い間違えや、もたもたした動作、声のトーンの弱さが、まだ強く印象に残っているからだ。今回の討論会で、有権者はまず、ハリスとバイデンを比較するのだ。
次に、ハリスがトランプの議論に対して、即座に切り返すことができれば、有権者はそのハリスの姿と能力が高く、健康でエネルギーに満ちた大統領像を引き出してくるだろう。
従って、討論会ではハリスが「俊敏な頭脳」を示し、「鋭い議論」でトランプを責められるのかが、極めて重要な要因になってくる。トランプがハリスのスピード感のある議論に対処できず、バイデンのようにもたつくと、トランプは自身の健康と年齢問題を浮き彫りにしてしまう。