テレビ討論会を制するのはハリスか、トランプか?

2024.09.06 Wedge ONLINE

 結局、ハリス陣営は相手の発言中は、マイクを「オフ」にするというトランプ陣営の意向を受け入れた。トランプ陣営はコイントスでも勝って、最終弁論で有利な後攻を選んだ。

 ハリス陣営が不利な条件で妥協した理由は、テレビ討論会の開催は米国民にとって有益であり、政治的な駆け引きよりも重要であると判断したからであると言われている。

 ハリス陣営は、今回のテレビ討論会の形式は、トランプを守ってしまうと討論会を主催するABCニュースに書簡を送った。同陣営は、討論会の形式がトランプに有利であるという印象を有権者に与える戦略に出た。

「検察官対重罪犯」

 これまでハリスは選挙集会を行う度に、自分のバックグラウンドが検察官である点を強調してきた。そして、ニューヨーク州地裁で元不倫相手に対する口止め料を弁護士費用として帳簿を改ざんした件について、34の罪全てで「重罪犯(felon)」になったトランプと対決する決意を示してきた。 

 さらに、ハリスはトランプが設立した不動産セミナー「トランプ大学」における授業料詐欺疑惑や、元女性作家に対する性的暴行を巡る名誉棄損に対する賠償金命令も追及する。

 実際にハリスはこれまでの選挙集会の演説で、「トランプ重罪犯」をクローズアップしてきた。今回のテレビ討論会で、元検察官のハリスが、トランプの「犯罪」を主軸に、彼を「重罪犯」「詐欺師」および「性的暴行者」に描き切れるのかが最大のポイントになる。前回の討論会でバイデンが、トランプを「重罪犯」と呼んだとき、トランプは即座に、不法に銃を所有して有罪判決を言い渡された次男ハンターを持ち出して反論した。これに対して、バイデンは効果的な再反論ができなかった。

 この様子を観て、ハリスは今回の討論会に備えて、すでに2回模擬討論を行っていると、9月3日(現地時間)米ABCニュースは報じた。その際、2016年米大統領選挙でトランプと討論をしたヒラリー・クリントン元国務長官のコミュニケーションアドバイザーであったフィリップ・ライネス氏をチームに加えて、練習をしたと言う。ライネスはトランプの討論の特徴に基づいて、ハリスが勝てるようなアドバイスをしたと考えらえれる。

 ちなみに、ハリスが陣営に上級顧問として雇った元オバマ陣営の幹部デービッド・プラフ氏は、2008年米大統領選挙でオバマ陣営の選対本部長を務めた人物である。プラフは、回顧録の中で「オバマ対マケイン」のテレビ討論会に向けて、本番と全く同じサイズの演台や、相手役を選び討論の練習をオバマにさせたと明かした。練習の開始時間も、本番と同じ時間に合わせたと言う。

 今回の討論会で、ハリスがトランプの犯罪を過度に追及すると、傲慢な印象を与えて、却って、マイナスになるという意見があるが、逆にトランプを徹底的に追及しなければ、民主党支持者、民主党寄りの無党派層とハリス支持の共和党穏健派の期待を裏切ることになる。彼らは、ハリスがトランプの最大の弱点である「犯罪」に焦点を当てることに期待しているからだ。

 加えて、ハリスが今回の米大統領選挙では「司法の擁護」が求められていると明確に述べれば、彼女は無党派層や共和党穏健派からもさらなる支持を得ることになる。

 トランプの「犯罪」の他に、ハリスは米連邦最高裁がトランプに「免責特権」を与えた件も取り上げる構えだ。現在、保守派6人(内3人はトランプ指名)とリベラル派3人から構成される連邦最高裁は、米国民からの支持率が低い。

 米連邦最高裁がトランプに与えた免責特権を疑問視するハリスの討論は、無党派層や女性有権者、共和党穏健者の心に響くに違いない。

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