「市場のことは市場に聞け」――。株価や為替、金、原油……などの上昇と下落は、市場の動向の原因はせんじ詰めればわからず、しょせんは市場に聞け、といったいささかあきらめの意味があることわざである。バブルの崩壊がいつ起きるのかを誰もわからない。必ず上がる株式も下がる可能性がある株式も誰も知らないように。
東京証券市場は8月5日、前週の日銀による利上げを受けて終値が、前週末比4451円28銭安の3万1458円42銭を記録。米国発の株価急落のブラックマンデーの1987年10月20日に記録した、3836円48銭を上回って史上最大の下げ幅を記録した。市場最高値の4万2342円77銭を記録した7月11日から一気に1万1000円近く暴落した。
この日本発の株価の暴落は、アジアの株式市場の値下がりを誘い、米国の市場をも動揺させた。
日本銀行の利上げと、それを発表した植田和男総裁が記者会見において引き続き利上げの方向性を示唆したと受け止められている。日本発の「8月市場動揺」もまた市場に聞いてみるのがメディアの役割である。
国会の衆議院財務金融委員会は23日、植田総裁を閉会中審査に呼んで意見を聴取した。「8月市場動揺」後に、植田総裁としては初めて公開の場で発言をした。委員会のスタートは午前9時半から2時間半が予定された。衆議院は東京市場が開いている時間帯に、中央銀行総裁の発言を聴くというのは、市場に対する恐れを知らぬ所業である。
さらに、この閉会中審査によって、植田総裁は毎年米・カンザス連銀主催の経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」に参加できなくなった。この会議は、日米欧の中央銀行総裁と経済学者が最近の経済情勢を討議する。そのなかでも米連邦準備理事会(FRB)議長の講演がもっとも注目される。
過去には、議長が利下げあるいは利上げを表明したこともある。現在のパウエル議長も利上げを表明したひとりである。パウエル議長は今回の講演で「金融政策を調整する時が来た」と利下げに踏み切る考えを示した。ニューヨーク市場は景気や企業業績にプラスに働くという見方が広がり、ダウ平均株価は一時値上がり、円高へと進んだ。
日本の市場関係者は、日銀の金融政策会合に相当する、FRBの公開市場委員会(FOMC)がすでに公表している7月の議事録要旨から、利上げの方向性にあることがわかっている。パウエル議場は、市場の動向に配慮しながら講演内容を精査する、と考えている。
ここでも、植田総裁の会議への欠席について、衆院はなにも考えていないようにみえる。情報交換はフェイス・ツー・フェイスである。
さて、衆議院財務金融委員会での植田総裁の発言にもどろう。市場が開いているなかでの意見聴取という、市場の恐れを知らぬ国会議員たちを前にして、植田総裁は慎重だったと思う。
「8月の金融動揺」の背景には、「米国の景気減速の懸念があった」と述べた。また、内外の資本市場は引き続き不安定であることも認めた。日銀として今後の金利の引き上げについては高い緊張感をもって注視するとした。
東京市場は、株価は小幅な値動きを繰り返したが、終値は前日比153円26銭高の3万8364円27銭、1ドル=145円台で上昇した。長期金利は上昇した。
メディアは、「8月金融動乱」について、市場に何を聞いたか。
NHK「おはよう日本」は、株価大暴落の翌日朝のニュースで、株価急落について4つの要因を取り上げた。