【国際金融は誰が動かしているのか】日経平均株価動乱にメディアが伝えないこと、目を向けるべき“非公式”ガイドブック

2024.08.27 Wedge ONLINE

 第1は、米国経済の減速に対する懸念である。第2は円高ドル安の加速である。日銀が植田総裁の7月末の会見でさらなる利上げの可能性を示唆したのに加えて、翌日にはFRBのパウエル議長が早ければ9月の会合で利下げに踏み切ると発言した。

 第3は、中東情勢の緊迫化。イランがハマスの幹部がイスラエルによって殺害されたことを受けて、報復の姿勢をみせている。投資家はリスクを避けようと売り注文に走った。

 第4は、投機筋の仕掛けである。売り買いの前提条件を細かくプログラムに組み込んだ「高速取引」によって相場が左右されているという見方もあり、株価の急落を助長する要因とみる。

 どれも「市場の声」としては間違ってはいない。しかし、そもそもここに至った「アベノミクス」の黒田バズーガの超金利政策の後始末として、今回の金融動乱が起きた大きな原因のひとつではなかったか。

 衆議院財務金融委員会が意見を聴取すべきは、安倍晋三元首相が暗殺されて亡きいま、超低金利政策の真相を追究すべきだと考える。

 アベノミクスの理論的な主柱だった元内閣官房参与だった、世界的な経済学者である浜田宏一氏が最新刊の文春新書『うつを生きる』で、精神科医師との対談のなかでアベノミクスに至る一端を語っている。この著書の主題は、浜田氏が双極性障害を抱えながらも、研究と教育、そして政策決定の中枢にいたことによる苦悩と喜びを語ることにある。

うつを生きる 精神科医と患者の対話
内田 舞 (著), 浜田 宏一 (著)

 ここでは、アベノミクスについての浜田氏の見解を紹介したい。

 「25年前から現在までの日本経済の歴史をみると、日本経済は必要以上の円高のためにデフレに苦しんできたのです。…円高は日銀が金融緩和すれば止めることができたのに、それを日銀がしなかったために日本は20年ものデフレ景気沈滞が続いたというのがわたくしの(おそらく正しい)意見です。

 安倍晋三首相の第二次政権(2012―2020)の功績は、とくに日銀総裁に黒田東彦氏を任命して、それまでの円高にあえぐ日本経済を、金融緩和、円安の方針で救ったことです」

 「植田和男日銀総裁は、金融を十分に緩和しなかったために雇用が伸びなかった日銀の負の歴史を重く見ているのでしょう。円安を止めるのに必要な金融引き締めへの方向転換にはとても慎重に舵をとっています」

 「引き締め政策を長く続けて円高に誘導し続けたのが、日銀総裁の三重野康、松下康雄、速水優、福井俊彦(彼は金融緩和をかなり効果的に続けたのですが、残念ながらゼロ金利解除を急ぎすぎた。しかも最後に引き締めました)、そして白川方明の各総裁です。…日本が貿易立国を続けるのを完全に阻害し、平成時代の『デフレと沈滞の20年間』をもたらしたのです」

見るべき「非公式」の見解

 国際金融市場とは何か――。東京ディズニーランドのガイドブックには、公式もあれば非公式もある。ここからは「非公式」ガイドブックを見ていきたい。非公式とはいえ、本当に役立たなければ、だれも見向きもしない。

 NHK「おはよう日本」がまとめた市場の声も、植田日銀総裁の国会における意見聴取も、浜田宏一氏のアベノミクスの戦略意図も「公式」ガイドにみえる。

 国際金融の筆者の非公式ガイドブックは『赤い盾』(集英社文庫、全4巻・広瀬隆著)である。

 この作品は、金融王国ロスチャイルド家の数百年にも及ぶ歴史と、この王国にかかわった10万にも及ぶひとびとの家系つまり親族関係を探った超大作である。

 「財界鬼検事」と呼ばれた三鬼陽之助氏は、経済事件が起きると自分で作った日本の上層部の家系図を引っ張り出しては、事件の真相がほぼわかったと伝えられている。三鬼は雑誌「財界」の創業者として、筆誅を加えるとともに、「財界の相談役」ともいわれていた。日本で現在発行されている政治経済情報誌の多くは、「財界」の編集部から袂を分かった人々が新たに立ち上げたものが多い。