さて、「赤い盾」は、国際金融の頭脳は依然としてロンドンのシティにある、と指摘している。金融取引の多いニューヨークのウォール街ではない。
それは、フランクフルトのユダヤ人ゲットーに閉じ込められて金融商売していた、初代のマイヤー・アムシェル・ロスチャイルドの5人の息子がロンドンなど欧州に散って金融業を営み、米国の金融業とも婚姻関係によってつながりをつけていく。
ロスチャイルドのマークである「赤い盾」の5本の矢は、この5人の息子が一致団結することを求めている。
ロスチャイルドの「赤い盾」のメンバーは、各国政府の戦費の調達や富豪の資金運用などに登場する。戦争の裏には金融がある。
金の価格を決めているのは、シティの5つの家の子孫たちである。世界のダイヤモンドの採掘権と実質的な価格を決めているのは1社である。
「日経 モーニングプラス FT」(8月19日)が、金の高騰について特集を組んだのは賢明である。解説に加わったのは、マーケット・ストラジィ・インスティチュート代表取締役の亀井幸一郎氏である。
金ドル交換停止のニクソンショックを経て、2000年代になると国際通貨基金(IMF)は金を「コモディティ」とした。つまり原油や穀物などと同様の商品となった。
しかし、ITバブルの崩壊やリーマンショック、コロナの感染拡大のときに金価格は上昇した。金は「通貨性」が復活し、「無国籍通貨」と呼ばれるようになった。
最近の上昇は、中国人や中東の中央銀行による買い上げが価格を押し上げている。基軸通貨のドルからのリスクを避けようとしている意図が見える。
コロナ禍による景気後退に対して、各国が金融緩和に走った結果は、世界で流通しているドルが20京8253億ドル(23年8月)、ユーロはドル換算で17京5692億ドル(23年10月)、そして円が1592兆円(23年10月)。
カネは、為替に株式、債券、金、原油……と、利回りが良いあるいは良いと思われるものに姿を変えていく。世界で流通している過去最大のカネは、株式や債券、為替などに流れる。金融商品にバブルを膨らませつつ。しかし、それがいつ破裂するかはだれもわからない。
国際金融に資金を投じている、富豪たちにも注目しなければならないと考える。金融は人々の欲望のるつぼであり、カネには喜怒哀楽がこもっている(したがって、注意しないとやけどをする)。
評論家の橘玲氏が最新刊の文春新書『テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想』で、西海岸のベンチャーから巨額の資産を築いた群像の思想を明らかにしている。
「リバタリアンは『自由原理主義者』のことで、道徳的・政治的価値のなかで自由を最も重要だと考える。そのなかできわめて高い論理・数学的知能を持つのがテクノ・リバタリアンで、現代におけるその代表がイーロン・マスクとピーター・ティールだ」
「日本では残念なことに、いまだに『思想』というと孔子や仏陀やプラトン、カントやマルクス、あるいは1980年代に流行したポストモダンのフランス思想のことだと思われているが、科学とテクノロジーの水準が指数関数的(エクスポネンシャル)に高度化したことでこれらはすべて過去の遺物となった。
……その結果、いまや世界を変える思想はリバタリアニズムだけになっている。このように言い切れるのは、Google、Amazon、Meta(Facebook)などプラットフォーマーの創業者、チャットGPTなどのAI(人工知能)や、ビットコインなどで使われるブロックチェーンの開発者はみなテクノ・リバタリアンだからだ」
国際金融の“司祭者”がどのように金融を支配しているのか、また、国際金融市場にカネを投入している新たなテクノ・リバタリアンこそ、市場を揺さぶっている。