<ドキュメンタリー番組から学ぶ「南海トラフ地震」対策>3.11の教訓生かす西日本の放送局

2024.08.15 Wedge ONLINE

 東日本大震災当時、石巻赤十字病院で勤務していた東北大学病院の医師・石井正さんは次のように述べる。当時は病院間の患者の移送を指示するコーディネーターも務めた。

 「医療機関が持ち堪えるのは3日間が限度ではないか。1週間は難しい。地震では道路が使えなくなる。支援の経路が難しくなる。支援の方法が必要である」

地震発生形態によって変わる被害の形

 東海地方の「管中」とよばれる名古屋放送局制作の東海 ドまんなか!「南海トラフ巨大地震 見えてきた新たなリスク 命を守る行動とは」は、地震のメカニズムにまずメスを入れる。

 東海地方から九州にかけてのプレートが必ずしも一体となって地震を発生させるわけではない。西日本がふたつに分裂して、ふたつの地震が発生するケースを「半割れ」と呼ぶ。

 政府の予測によれば、「半割れ」した東側では震度7、西側では震度6強の地震が発生する。東海地方を中心とする東側では、死者約7万人が出る可能性がある。震度は8以上、20万人以上の避難が必要になる。

 経済的な損失は134兆円。東日本大震災の10倍にも及ぶ。

 名古屋大名誉教授の福知伸夫氏は、地震の規模について次のように述べる。

 「(仮に二つの地震がそれぞれ起きても、同時に起きても)ひとつの地震で東日本大震災の5倍の威力がある」

 歴史的にみると、「安政東海地震」(1854年)は、約32時間後に「安政南海地震」をもたらした。「昭和 東南海地震」(1944年)から2年後には「昭和 南海地震」が発生している。

 東日本大震災の被災者を襲った巨大地震と津波の記憶が重なって、南海トラフ地震が襲うと予測されている地域では住民の避難訓練が続いている。

 静岡市駿河区は、予測によれば、地震発生後10分で高さ4.6メートルの津波が押し寄せる。行政は、個々人が「わたしの避難計画」が作れるように避難タワーなどの位置を印した冊子を配っている。3月初旬の訓練では避難タワーに約250人が訓練に応じた。

 名古屋市港区はいわゆる「ゼロメートル」地帯である。住民に「無事です」カードが配られている。無事であれば、ベランダなどに掛けるようになっている。逃げ遅れた人を見つけ出す仕組みである。

各地で起こる津波と避難方法

 中国地方向けの「管中」の広島放送局のコネクト「中国地方も危ない!?南海トラフ巨大地震」は、南海トラフ地震の正面に四国があるゆえに、瀬戸内海にその影響がないのではないか、という視聴者の漠然とした?楽観論?を打ち破る。

 西日本を襲った阪神・淡路大震災は「直下型」である。短い揺れが特徴である。これに対して「南海トラフ地震」は東日本大震災同様に「海溝型」。大きな揺れが3分以上も続く。

 予想震度は、山陰地方の松江で震度5弱、鳥取は震度5強。瀬戸内海に面した岡山と倉敷で6強、広島で6弱、山口で5強、下関で5弱である。

 地震発生から2時間後、四国を回り込むようにして豊後水道と紀伊水道から、瀬戸内海に入り込む。その後、6時間から12時間は両方の水道から侵入した津波が増幅と打ち消しあいながら中国地方の瀬戸内沿岸の都市を襲う。しかも、両水道からの津波の相互作用によって、数波わたると推定される。

 津波の高さは最大5メートルに達する。山口が5メートル、広島、福山、倉敷、呉、宇部、下関がそれぞれ4メートルである。岡山は3メートル。

 津波は高さ30センチで歩行が困難になり、1メートルになると抗しきれずに死に至る。

 高松放送局の番組「ゆう6かがわ 『とち知り』」は、この津波について地元局らしい分析を試みている。

 高松の震度は推定で7、津波の高さは4メートルと推定されている。

 香川大特任教授の金田義行氏は次のように指摘している。

 「(東南海トラス地震による)津波は豊後、紀伊水道から瀬戸内海に入るまで1時間から1時間半の時間がかかる。半日間は元の海に戻らない」

 「第4波、第5波が(相対的に)大きい。最大波は遅れてくる。つまり、身支度の時間はある。できるだけ早く逃げることだ。避難が半日は続く。それまでは決して戻らないことだ」

 最後に、筆者は謝罪しなければならないだろう。東日本大震災の教訓はようやく、全国に浸透しようとしている。西日本のNHKの地方局の番組のなかで、それははっきりとみえる。

 「南海トラフ地震」にとどまらず、首都直下型地震、日本海溝地震など、12年前の教訓はこれからもその対策に生かされていくことだろう。