<ドキュメンタリー番組から学ぶ「南海トラフ地震」対策>3.11の教訓生かす西日本の放送局

2024.08.15 Wedge ONLINE
 宮崎県沖の日向灘を震源とするマグニチュード7・1の地震が8日午後4時43分に発生し、宮崎県南部平野部で震度6弱の揺れを観測。気象庁は初の「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表した。今後1週間程度は巨大地震発生に注意し、万一に備えることが求められる。
 ?想定外?の大地震の発生へ私たちは何を備えておくべきなのか。過去の災害から学び、考えておくことが必要であろう。2023年3月19日に掲載した『「南海トラフ地震」対策に3.11の教訓生かす西日本』を再掲する。

 東日本大震災が巨大地震と津波、そして東京電力福島第1原子力発電所のメルトダウンをもたらしてから12年の年月が流れた。全国放送が追悼と回顧、希望と悔恨を描くなかで、西日本のNHKの地方局が、「南海トラフ地震」に備えて、東日本大震災から学ぶ特別番組を放送した。政府の予測によれば、今後30年以内に70%から80%の確率で発生する可能性があるとしている。

東日本大震災の当時の被害状況(enase/gettyimages)

 「事件は近いものほど事件である」と新聞記者になりたての頃、叩き込まれた。嫌な言い方をお許し願えば「遠くの火事よりも近くの火事に人々の関心はある」ということになる。

 東日本大震災の震災地のフィールドワークを続けながら、ルポルタージュやコラムを執筆してきた筆者にとっても、西日本の拠点を置くメディアの仲間と話していると隔靴掻痒(かっかそうよう)の感があった。それは、東京のメディア人のなかでも実際に震災地を訪れたことのない人にも感じたことがある。

 震災地から避難した人々ばかりではなく、この土地で新たに働こうとし移住してくる人々らのための施設づくりについて「震災地は公共事業頼み」だと批判する。第1原子力発電所に溜まった処理水の海洋放出についても、政府の安全基準を大幅に下回って希釈する事実や中国や韓国など、海洋放出に反対する諸国が実は大量の処理水を投棄している事実に知らないか、知ろうとしない。

 西日本のNHKの地方局が、東日本大震災発生日の1日前にいずれも放送した内容は、「南海トラフ地震」を扱いながらも、東日本大震災の実態を描くとともに、12年の歳月を経て地震学・防災学の進歩を描きだしている。もちろん、東日本大震災の震災地もその教訓を生かして次の災害に備えているのは間違いない。

 その力作の数々は、東日本大震災の震災地を拠点とする筆者にとって、震災地の人々の苦闘のありさまが静かに浸透していることをうかがわせて感慨深い。地方局が震災地とその研究者、関係者を取材しているさまも。

医療?孤立?にどう対応するか

 高知放送局のとさ金「南海トラフ地震 その時医療は」はまず、地震が発生した場合に県庁所在地の高知市を高さ10メートル以上の津波が襲い、死者は約4万2000人にのぼる数字をあげる。かつ、最大3メートルの津波が市内に押し寄せると、医療機関の半分以上が外からの支援を受けられなくなる。こうした医療機関は少なくとも1週間は「籠城」を迫られる。

 高知放送局の医療機関に対するアンケートによると、食料・飲料水、薬など、自家発電が1週間以上維持できるところはほとんどなかった。

 孤立した場合に緊急に他の病院に搬送が必要な患者を抱えた、大型病院(500床)は非常事態を想定した訓練を続けている。屋上のヘリポートには13階のエレベーターに乗り換えなければならない。

 人手の問題で、1日に100人搬送するのが限界と推定されている。そのほかに、薬が貯蔵されている1階から重要なものを階上に上げなければならない。また、透析患者にとっては命にかかわる水道の確保も必要である。