どんな仕事に取り組むのであっても、強いチームをつくるのに重要なのが、目標を掲げることです。
明確な目標がなければ、仲間内の関係性ばかりを気にする「仲良しクラブ」や、目的なく集うだけの「烏合の衆」といった、弱いチームになる危険性があります。
ただし、目標はただ掲げればよいというわけではありません。
ついやってしまうのが、「利己目標」で動機づけすること。利己目標とは、「己」の「利」だけ考えるという目標の設定の仕方で、多くの場合、チームを弱体化させるという結果になっています。
私は組織開発のコンサルティングで企業の人事評価制度を設計することもあるのですが、評価制度が「利己目標」をベースにしたものがあまりに多いと感じています。
「成果主義人事制度」というのはその最たるもので、仕事をした対価として利己的欲求を満たす報酬を支払う制度です。
かつて、大胆な成果主義人事制度を取り入れた外食企業がありました。かなりインパクトのある内装のわりに単価がそこまで高くなく、カジュアルなレストランなのに料理がおいしいという評判で一世を風靡した企業です。
そこで導入されたのが、店長は業績を上げることができれば年収1000万をゆうに超えるというもの。一般的な飲食店の店長クラスの年収の平均は、だいたい400万円から高くても600万円いかないくらいなので、1000万円を超えるとなれば相当な高収入です。
私自身は、外食産業はもっともっと収益性を高めて、社員の年収が上がっていくべきだと考えています。外食業界の所得水準の向上は、私が人生をかけてやりたいことの1つなのですが、成果主義人事で収益を出せば給料が上がるという、この利己目標をベースにしたこの仕組みは、残念ながら破綻してしまいました。
この企業では、売上予算はもちろんのこと、2大コストと呼ばれる原価率と人件費率の管理にも高い基準を設けていて、利益額をどのくらい出せるかでもらえる報酬が激しく変わる制度でした。
高い利益額実績を出せているときは、店長は給料が上がり、会社も利益が残るので、何も悪いことはないのですが、業績が悪化したときは、あっという間に崩壊します。利益が減ったのに高い報酬を払い続けることはできません。
例えば前年1000万もらっていた人が600万円になると、税金の負担はとんでもないことになります。年収1000万円の税金は300万円くらいですから、600万円から300万円が引かれると、手取りが300万円程度になってしまうのです。手取り700万円あったものが半分以下へと激減してしまうというわけです。
成果主義人事とはそういうことです。
この場合、多くの店長はその会社を去ります。年収1000万円もらっているうちに、翌月から年収が落ちることが確定した段階で退職してしまうのです。なぜなら、転職する際に、前職でもらっていた給与額が基準になるからです。