波戸場耀次(ようじ)さんは、着物に家紋を手で描き入れる「紋章上繪師(もんしょううわえし)」として技術を継承しながら、『デザインとしての家紋』をコンセプトに、企業・個人の紋意匠デザインを手がけたり、新しいジャンルのデザイナーと組むなどして「家紋とプロダクトの新しい形」を提案しておられる方です。
2010年に、古い一軒屋をリノベーションした工房「-誂処 京源-(あつらえどころ きょうげん)」を台東区・稲荷町に構え、この場所で作品の制作や展示、お客様との商談などを行ない、数々のアイデア・商品を生み出してこられました。「-誂処 京源-」は明治43年(1910年)に初代・源次様が創業した屋号「京源」に由来し、波戸場さんのお父上である三代目・波戸場承龍(しょうりゅう)様によって、100年の時を経て復活したのです。
実はこの「-誂処 京源-」、僕が主催する「キュキュキュカンパニー」(御徒町)と“ご近所”の距離にあります。街とものづくりの魅力に触れることをテーマに、このエリアで毎年開催される『モノマチ』の第7回イベントのときに、縁あって一緒にプロジェクトをやらせていただいたのをきっかけに、耀次さん・承龍様親子と仲良くさせていただいているのです。
波戸場承龍さんは、紋章上繪師という日本の伝統美意識をしっかりと受け継ぎ、現在はNHK Eテレ『デザインあ』の「もんのコーナー」や、コレド室町1・2・3の紋などをはじめ、さまざまな場で紋をクリエイトなさっています。ちなみに波戸場さん、公の場に登場するときはお着物姿。着物をしっかり着こなし、颯爽と現れるその姿はとにかく粋でカッコイイ!
そんな波戸場さんに、僕はおそるおそるメールをしました。「あの~、失礼とは存じますが、ひとつ相談がありまして」「何でしょう?」「実は僕、ある歌舞伎役者さんの襲名披露会に招かれまして、着物で参加しようと思うのですが、その、波戸場さんにお着物をお借りできないかと」「もちろんいいですよ。光栄です。ぜひいらしてください、僕が着付けしますから」
え? マジで! 嬉しい。わ~い、これで安心です。「僕、何も知らないので、まずきちんと打ち合わせさせてください」そう言って電話を切り、久しぶりに波戸場さんを訪れることにしました。
そしてやってきた「-誂処 京源-」。大きな家紋の入った暖簾をくぐると、そこには落ち着きある古民家のたたずまいが。うっすらと香が立ち込めていて、いつ来ても心安らぐお仕事場です。
僕がカラフル&ユニークなSTYLEであることをご存知の波戸場さんは、色がある着を中心にあらかじめ用意しておいてくれたご様子。でも僕は「今回はオーソドックスな紋付袴でピシッとキメて着ていきたいのです」と伝えます。
そして――波戸場さんは、足下からコート、手荷物を入れる合財袋(がっさいぶくろ。一切合財を入れる袋、という意味から名付けられた。男性用)まで、全身をコーディネートしてくださいました。僕はもちろん大満足です。この日はあくまでリハーサルですから、パーティー当日にもう一度伺う約束をして、京源をあとにしたのでした。
それにしても、パーティーの装いにこれほどのPowerを使ったのは初めてかも。もちろん「着ること」は大好きです。襲名披露会が待ち遠しい。いざ! 挑みます。
そしてやってきた1月28日――この日は文句なしの晴天です。髪も朝からバッチリ剃り上げて、いつもどおりガッツリセットし、波戸場さんのもとへ伺いました。
「こんにちは。よろしくお願いします」「お待ちしていました。支度の準備はできています。さ、着せていきますよ」と波戸場さん。着付けについてひとつひとつ丁寧に説明していただきながら着物をまとっていきます。
着物には、ほんのりと香の匂いが乗っていました。ギュッと帯を締められると、背筋がシャキッと伸びて胸も張り、どんどん形になっていきます。その間も波戸場さんは「袴の腰脇に扇子を入れるのは、昔、武士が刀を差していた頃の名残」といった知識や、着崩れたときの対処法、座る際の袴の裾の扱い方などさまざまなことを教えてくださいます。もともと日本伝統文化は大好き❤で興味があったので、とても興奮し、楽しい時間を過ごさせていただきました。
やがて着付けが完了。着物姿の僕を見て、波戸場さんも承龍様も「すごくお似合いです。普段から着慣れている人にしか見えません」と言ってくださいました。嬉しい。46歳の可愛い貫禄が出てきたからでしょうか? 美しく着付けしてくださり、まことにありがとうございます。
さらに波戸場さんからサプライズが。「CUEさん、オリジナル紋を創っておきました。特別シールでバッチリ貼りましたので、これで列席してくださいね!」と。羽織に付けられたその家紋は、僕がイラストとして描いた“僕の顔”。まさに顔紋です。それも、マル枠からちょこんと顔を出している「覗き紋」とのこと。やばい! めちゃくちゃキャッチ~!!! 嬉しいです。さすが家紋屋さん。遊び心があって洒落ていて、粋でございます。参りました。これで行ってまいります!
「このたびはおめでとうございます。お招きいただきましてまことにありがとうございます」
パーティーでは、招待してくださった坂東亀三郎さんをはじめ、皆さんに挨拶と感謝の気持ちをお伝えしました。皆さんとてもお優しく、気さくな方々で、楽しくHAPPYな経験をさせていただきました。
何百年もの伝統がある歌舞伎界を担い、芸を受け継いでいく亀三郎さんたちの生き様は本当に素晴らしいです。亀三郎さんご一門は、今年5月に歌舞伎座で團菊祭五月大歌舞伎を公演なさるとのこと。この公演は、ぜひ観にいきたいと考えています。その際は“勝手に舞台ソムリエ”として、また粋に着物を着ていこうかなと思っております。
日本に生まれてよかった。日本文化は素晴らしいです。LOVE❤JAPAN
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