今回のシューティング対象は、松也君を含む一門の歌舞伎役者7名に決まりました。それぞれのポートレートに加えて、松也君と親交があり、公演にもゲスト出演予定の坂東亀三郎さんと彼の対談シーンも撮影します。1日に8人、しかもスケジュールは非常にタイト。というのも皆さんそれぞれお忙しく、稽古や舞台のあとに駆けつけることになったからです。でも、何人もの歌舞伎役者の方々にお会いし、目の前で撮影に立ち会えるなんて……妄想するだけで大興奮❤です。一体どんな現場になるのだろうと、朝からドキドキワクワクでした。
そして迎えた撮影本番――といっても皆さんそれぞれご予定がバラバラですから、撮影スタジオには入れ替わり立ち代わりでいらっしゃいます。お疲れのはずなのに、どなたも非常に気さくでした。簡単な挨拶のあと、ヘアメイクをし、羽織袴に着替え、カメラ前に立つ歌舞伎役者たち。ピーンと背筋が張った着物姿は、やはり美しい。なんだかスタジオ全体が凛として、澄んだ空気に満たされているみたいです。素直に、めちゃくちゃカッコイイ!!!
撮影を担当するフォトグラファーの網中君は、皆さんと以前から顔馴染み。だから撮影はフランク&スムーズに進んでいきます。そしてさらに、撮影される歌舞伎役者の皆さんのたたずまいが素晴らしいので「キマる」のが速い! 被写体としてすぐ「絵」になるため、見事なビジュアルがどんどん撮られていきます。
これまで数々のモデル・俳優の撮影クリエイションをしてきた僕も、思わず「何ですか? この完成度は!」と唸ってしまいます。これが、日々稽古に励み、スポットライトが降り注ぐ舞台に立つ歌舞伎役者という存在なんだ、と感動しました。とくに、顔です。日ごろから見得を切り、顔で演技する彼らは、“顔が創れる”のです。眉毛や口、果ては瞳の奥にまで演技を感じるほどの迫力。圧倒的に濃密な撮影時間は、あっという間に終了しました。モデルや俳優とはまったく違う雰囲気を醸す歌舞伎役者……全身にみなぎる力と雰囲気が美しく、そして気高いのでした。
これにてポスターの撮影はいったん完了。次はパンフレットのメインとなる対談ページ用の、亀三郎さんと松也君の2ショットです。ここではビシッとスーツを着ていただきました。着る物が替わっても、やはり体を張る・胸を張るそのたたずまいは凛としていて、非常に絵になります。この空気は何なのだろう、と感嘆してしまいました。
やがて、撮影もいよいよ大詰めに。最後はメインビジュアルである本命★松也君の顔のどアップです。隈取りの下、素顔の地。顔の筋肉が日々の稽古で鍛えられているのでしょうか、眉や口角のちょっとした動きからも意気込みが放たれているかのようです。品位があり、それでいてほとばしる勇ましさは見惚れるほど美しく、表情はまるで香が立ち込めるようにめまぐるしく変わっていきます。カッコイイ!!! 彼の顔の変化とともにカメラのシャッター音が鳴り響き――無事、撮影の幕が下りました。
こうして完成したビジュアルは、赤色の背景に松也君のCOOLな本気Faceのどアップ、そしてコントラストをつけた『挑む』の白文字というもの。このポスターは街中に貼られ、好評を得たのでした。以降、この公演のアートディレクションをさせていただき、毎年、異なるビジュアルの『挑む』を創ってきました。
年を追うごとに、松也君の人気❤はアップ。メディアでの露出が急増し、広告CMにも抜擢。レギュラー番組も持つようになり、もちろん歌舞伎座にも立ち続け、2015年には中村勘九郎さん・中村七之助さんと渋谷Bunkamura内のシアターコクーンで歌舞伎『三人吉三(さんにんきちさ)』を演じるほどに。今年の大河ドラマ『おんな城主 直虎』にも今川氏真役で出演されるとのことで、今からとっても楽しみであります。
さて、そんな松也君と親交の深い亀三郎さんの襲名祝いの会に列席することになったわけですが……どうしよ~。何を着ていったらいいのだろう? 経験者にアドバイスを聞こうと思いましたが、そもそも襲名披露パーティーに行ったことのある知人が見つかりません。とにかく、粗相のないようにしなければ。
どんなSTYLEで出席すればいいのか。結婚式や一般的なパーティーであれば自分流のオリジナリティー溢れるものを着ていけばよいのですが、襲名祝いの会となるとさすがにビビります。「どうしよう。スーツは持っていないし……せっかくだから、このタイミングでオリジナルスーツを仕立てようかな」などと考え始めたところで、大の歌舞伎通であるガールフレンドを思い出し、相談することにしました。
「実は、ビックリなんだけど襲名披露の会に招かれちゃったの」「え~! ま、まじで! すごいじゃん! 私も行きたい!」「それで、あなた歌舞伎に詳しいじゃん? 何を着ていけばいいと思う? というか、どんな感じの会になるのか、まったく未知数だからビビってる~。どうしたらいいのかな?」「ふんふん。ならさ、絶対着物だよ! 着物着ていったらいいよ、着物! 着物!」「着物かあ、おばあちゃんが生きてた頃は何度かおじいちゃんの着物を着せてもらったけど……10年以上着てないな。いま着物なんて持ってないし、着付けもできないし」「いいわよ、私が着付けしてあげるわ。っていうか、CUEちゃんの身近にいい人いるじゃない」「うん? 誰? 着物に詳しい人なんていたっけ?」「いるじゃない、波戸場さんが。ちょっと聞いてみたら?」「あ~~~! 波戸場さん! バッチリだ~。だけどさ、着物だよ? 着付けもだけど、衣装を貸していただくのも抵抗あるなあ」「大丈夫よ、波戸場さん、普段から着物着てるし、きっとOKしてくれるわ。1回聞いてみなさいよ」
おお、なんというプロデュース能力! 心強いガールフレンドです。素晴らしい。